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来年も再来年もこんな盛大なお祭りがずっと続くと信じて疑わず、エーレが勝ち進む度にエーレマークⅡの旗を振って無邪気に喜ぶ観客達は、もちろん今年でエーレが打ち切り、もとい最後の大会出場になると知る由もない。
それを知っているのは、この数万人が集う大会会場内でわずか十人にも満たず、参加選手に至っては当事者のエーレと黒幕のコルティナのただ二人だけ。
片や何物をも恐れず真っ直ぐに獲物へ突撃する猟犬の如きエーレ、片や何物にも縛られず自由気ままにふわふわと空に浮かぶ雲の様なコルティナ。いつもと変わらぬ様子で試合に臨む二人の表情からは、そんな裏事情の存在など全く読み取れない。もっとも試合中は防護マスクを被っているので、観客からはほとんど表情が見えないという話もあるが。
興を削ぐ裏をあえて見せずに創り上げた最後の晴れ舞台に相応しい最高のお祭り騒ぎの只中、主役に祭り上げられたエーレはその期待に違わぬ活躍を見せ、コルティナのデータ分析で強化されたララメンテ家の精鋭達を一人、また一人となぎ倒して行く。
一方、ラスボスと目されるコルティナも、身内の敗北からさらにリアルタイムでデータを更新しつつ、来たるべきエーレとの最終決戦に向けてふわふわとコマを進めている。さながら味方を体内に吸収して自身を強化する、あまり一緒に戦いたくないタイプの化け物の様に。
そして迎えた決勝戦では、いよいよ皆が待ち望んだエーレとコルティナのラストバトルが実現し、
「やっぱり最後のシメはこの二人じゃないと!」
「『ロボ』対『魔女』! 何か科学と魔法の対決っぽいな!」
「目から出たビームを空中に描いた魔法陣で防ぐやつ!」
虚構と現実がごっちゃになった観客達は、昨日「巨大怪獣」ミノン対「大道芸人」パティの大一番が流れた反動もあってか、少しテンションがおかしくなっている。
負けじとララメンテ家の応援団も、「作品のクオリティーを支える為に何度も挟まれる総集編」、という試合と全く関係無い文が書かれた横断幕を掲げ、さらに場のテンションをおかしくする。
もはや狂気に近いノリで沸きに沸く会場内にあって、その中心にいる二人の剣士はルールに則り、淡々と互いに一礼の後、試合場の中央で向かい合った。
これが文字通りのラストバトルになるとは誰にも気取らせぬまま。




