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このララメンテ家の剣術大会を一時間半のホラー映画に例えるならば、決勝戦は怪物対ヒロインのラストバトル、最後の十分間のクライマックスに相当する場面である。
間違っても全長の約三分の一を費やしてまで、ダラダラと同じ展開を続けるシーンではない。
しかし、今大会のクライマックスであるこの決勝戦においては、まさにその様な展開が三十分以上も続いており、猛然と攻めるシェルシェと、ふわふわとこれを受けるコルティナとの攻防が、決着がつかないままひたすら繰り返されていた。こうなるともう、選手も審判も観客も気力勝負である。
「かなり疲れてるだろうに、よくあんなに動けるなシェルシェは」
「コルティナも、立て続けの攻撃を完璧に防ぎ切るだけの集中力を、これだけ持続してるのが凄い」
「マントノン家にしてもララメンテ家にしても、剣術の名門のお嬢様ってのは、見た目以上にタフな化物なんだな」
そんな観客の声をちらほらと耳にして、同じく剣術の名門レングストン家のお嬢様で、今大会の参加は見送って観戦に徹していたエーレも、
「化物、ね。褒め言葉だわ」
と呟いて、不敵な笑みを口元に浮かべた。二人の戦いを見て、剣士としての血が騒いでいるらしい。
が、周りにいたレングストン家の道場生達は、それを聞き付け、
「エーレはどんな化物が好き?」
「グロいビジュアルの地球外生命体なんかどう?」
「マスクを被ったシリアルキラーもなかなか」
「ゆっくりと追って来る死体の群れも外せないわ」
「長い髪で顔を隠した女の霊もインパクトがあるよね」
剣士としての血と何の関係もなく、着々とホラー映画鑑賞会開催に向けて、布石を打ち始めるのだった。もはや彼女達を誰も止められない。
「そ、そんな作り物より、ほら、あそこで戦ってる二人の方が」
内心怯えつつ、必死にその話題から逃げようと試みるエーレこそ、ホラー映画のヒロインの様である。
襲って来る怪物役は、もちろん周りの道場生で。集団でちっちゃなツインテールの女の子を取り囲み、
「さあ、観念してこのホラー映画のDVDを見るのだぁあ」
「キャー!」
何このバカ映画。
そんなエーレの被害妄想はともかく、試合場では二匹の化物が戦っている時間がついに五十分を超えた。
「これはもしかすると、一時間を超えるかもしれない」
観客のほとんどは席を立たず、この異様な決勝戦に見入っている。
あと五分……あと三分……あと一分。
よし、残り三十秒切った。
五、四、三、二、一、ゼロ、やった、一時間超えたあ!
この手のカウントダウンは、カウントダウンされる対象と関係なくつい盛り上がってしまうから不思議だ。




