◆609◆
いよいよこの年のエディリア剣術御三家による全国大会も最終日。フィナーレを飾るのは最もお祭りムードを前面に出した、と言うより、もはやお祭りムードに道場ごと乗っ取られた様にしか見えないララメンテ家の一般の部である。
会場の外には最後の稼ぎ時とばかりに所狭しと「劇場版エーレマークⅡ」のキャラ菓子の屋台が並び、物販コーナーも駆け込み需要を見込んだ「劇場版エーレマークⅡ」関連グッズで溢れかえり、観客も試合より現在進行中のお祭り騒ぎを堪能しようとその大部分が「劇場版エーレマークⅡ」のイラストが描かれた応援旗を手にしており、例えるなら丸ごとライバル業者に居抜きされた店舗の様な寂しい状況の中、
「ウチにはコルティナさんが用意した横断幕がある!」
「アトレビド社から提供された巨大菓子もある!」
「少数勢力でも最後まで応援頑張ります! そう、どんな狭いスペースにも出店するファストフード店の様に!」
コルティナに洗脳された後輩達によるララメンテ家応援団はめげる事なく、色とりどりのホールケーキ大のかるかん饅頭を手に、狭いスペースで健気に張り切っている。
もっとも彼女達が掲げている横断幕には、「最後まで戦え、我らの巨大ロボ! 目指せ、打ち切りなしの4クール完走!」、というロボアニメのナレーション風ではあるが妙にシビアな文が書かれており、
「確かに番組が打ち切られて、話数を無理やり減らされるのは悲しい」
「関連商品が売れずに打ち切られた作品なんかザラにあるもんな」
「つまり俺達はもっとエーレマークⅡグッズを買えと」
ララメンテ家の選手の応援よりも、エーレマークⅡグッズの売上げに貢献していたのだが。
しかし、このふざけた横断幕から、
「『最後まで戦え、我らの巨大ロボ!』、ね。私の事かしら」
今日で公式大会への参加が最後となる我らのちっちゃなエーレは、別の隠された意味を読み取った様子である。
その後、試合の合間にコルティナと直接話す機会があったエーレは、これについて問い質すと、
「うふふ、今日がエーレの最後なんだから、目一杯楽しんでいってねー」
案の定、答えになってない答えがふわふわと返って来た。
「いや、『エーレの最後』って言い方、何かイヤなんだけど!」
つい突っ込んでしまうエーレ。
「じゃあ、『ふはははは! 今日がエーレの命日だー!』」
「その言い方はもっとイヤ! ってか、何で悪役風なの!」
「うふふ、誰かに聞かれる可能性のある場所で、詳しい事情を説明しない方がいいかもねー」
茶目っ気たっぷりに人差し指を自分の口に当てるコルティナ。
「ま、まあ、それはそうだけど」
「あの横断幕は、エーレの思っている通り、一種のエールみたいなものだよー」
「やっぱり、そういう事ね。気持ちはありがたく受け取っておくわ」
あえて言葉少なに互いの心中を伝えるだけに留めるコルティナとエーレ。
「もちろん、いつものファンサービスでもあるけどー」
「おちゃらけたファンサービスとエールを混ぜないで」
「じゃあ、そろそろ横断幕を替えるねー」
そう言って、応援団の方にふわふわと合図を送るコルティナ。
応援団が掲げた二枚目の横断幕には、「最終回の見所は主人公機の大破シーン及びラスボスの散り際」と、一枚目以上に意味不明な文が書かれており、
「これもエーレへのエールだよー」
「ごめん、本気で意味が分からない」
困惑するエーレ。
「うふふ、決勝戦で待ってるよー。ロボットアニメの最終回の醍醐味は、やっぱりラスボスとの激しい一騎討ちだからねー」
答えになっていない答えをふわふわと言って、自分の試合にふわふわと向かうコルティナ。
「情報の漏洩を防ぐ為とはいえ、何か暗号文で会話してる気分だわ」
狐につままれた様な表情でその後ろ姿を見送るエーレ。




