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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十九章◆◆ ちっちゃな剣士が操縦する巨大ロボットについてⅢ 「採算」

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608/638

◆608◆

 自慢の妹が二人そろって他家の無名選手にまさかの敗北を喫したその晩、


「これで、『データ分析で他家に遅れを取っているマントノン家』というイメージがさらに定着することでしょう」 


 それをマントノン家の書斎で前々当主にして祖父のクペに報告する現当主シェルシェの表情は、流石に少し曇り気味であった。


「しかしデータ分析で多少遅れを取ったとて、これまで積み上げて来た剣術道場としての実績と信頼は、そう易々と覆るまい」


 曇りが大嵐にならぬよう、慎重にフォローするおじいちゃま。


「楽観は出来ません。『優れたデータ分析を駆使すれば、業界最大手のトップ剣士にも勝つ事が出来る』という謳い文句は、道場選びに際して大きく影響します」


「何だか予備校のキャッチコピーに似ているな。『過去の入試問題のデータ分析で、難関校合格も夢じゃない』とかの」


「正にそれです。誰しも『地道に修練して強くなる』よりも『効率よく試合に勝つ』方を選びたいものです」


「何事も、楽な方へと流れるのが人の性か」


「内戦後の武芸ブームでは、第一に『治安の悪化した状況下でも自分の身を守れる強さ』が求められました。ですが、もうその様な時代でもありません」


「エディリアの治安が回復した今、無理して護身術を習得する必要もないしな」


「私が剣術のスポーツ化にこだわるのもそこなのですが、話をデータ分析に戻しましょう。もちろん、我がマントノン家もデータ分析には力を入れていますし、今大会でも地味に成果を上げています」


「残念ながら、パティ、ミノンの敗北に比べると地味過ぎて、部外者に分かる程の成果ではない。昼間の星の様に」


「ええ、この手の成果が部外者にもはっきりと分かるのは、『弱者が強者を倒した時』だけです。つまりデータ分析の有効性を示すには、分かり易い『倒すべき強者』が必要なのです」


「我々の場合、それはレングストン家のエーレと、ララメンテ家のコルティナという事になるが、二人共、今年の大会を最後に引退する可能性が高い」


「ええ、今後データ分析を充実させたとしても、それであの二人を倒す機会はありません。私達に出来るのは、『他家のデータ分析が通じない程の強さ』を強調する事位です。それはそれで真っ当なやり方なのですが」


「『データ分析で他家に遅れを取っているマントノン家』というイメージはそのまま残る、か」


「こればかりは、正直お手上げです。客商売の難しい所ですね」


 珍しく弱音を吐くシェルシェ。


「どうにもならない事をどうこう言っても仕方がない。我々は我々の強みを活かすだけだ。お手上げと言えば、パティは?」


「地下室です。試合に敗北したのを咎めている訳ではなく、その後どさくさにまぎれてエーレに狼藉を働こうとしたので、徹底的に反省させています」


「そうか」


 『データ分析で他家に遅れを取っているマントノン家』は仕方ないとして、『変態がいるマントノン家』というイメージだけは絶対に定着して欲しくないと切に願う祖父と孫娘だった。

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