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ミノンのヴォルフに対する剣術の指導はひたすら激しい。
ヴォルフはこの文字通り巨大な姉に全力で立ち向かっては、打たれ、払われ、突かれ、蹴られ、体当たりされ、何度も何度も倒されながら、すぐに立ち上がって剣を構え直し、再び果敢に立ち向かう事を繰り返す。
もちろんミノンは上手く手加減をしており、ヴォルフに生命の危険はない。はずである。
ミノンを含めマントノン家の三姉妹は皆、この年の離れた弟ヴォルフを溺愛していたが、その愛し方は三者三様で、次女ミノンにとっての愛し方とは、
「ヴォルフを武芸者として徹底的に鍛え上げる事」
なので、この様な荒っぽい形になってしまうのだ。
また、三女パティにとっての愛し方とは、
「ヴォルフを愛玩動物の様に可愛がる事」
で、武芸とはあまり関係がないが、ある意味下手な武芸より危険であるのは、既に見た通り。
長女シェルシェに至っては、
「ヴォルフをマントノン家歴代最高の当主に教育する事」
と、壮大な野望と化してしまっていて、もはや彼女を誰も止められない。
ちなみに、「マントノン家歴代最低の当主」、と不名誉な評価をされているのが、シェルシェ、ミノン、パティ、ヴォルフの父親にして前当主のスピエレ・マントノンであり、決して悪人ではないのだが、武芸者としても一族の長としても、特に秀でた所もない凡庸な男であった。
が、もちろんそれだけで「歴代最低」とまで言われるはずもなく、こんな不名誉なレッテルを貼られるからには、それ相応の事情がある。




