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その後も、あの手この手でエーレをからかい尽くし、
「たまにはこんな風に、ごく普通の女友達がする様な恋愛話に興じるのも悪くないですね」
「私はいつも、ウチの道場のみんなと女子会でやってるよー。やっぱり、恋バナは盛り上がるねー」
満足げに感想を述べ合うシェルシェとコルティナに対し、
「私はそういうの苦手だわ。傍観を決め込もうとしても、なぜか最後にはからかわれる羽目になるし」
からかわれ疲れてぐったりした様子で異議を唱えるエーレ。
「ですが実際問題として、エディリア剣術御三家の私達がこうして集まって、何やら密談していると外部に知れたなら」
「タダの女子会じゃなく、次の大会の八百長の相談でもしてるのかと勘繰られるかもねー。エーレと私が一般の部に出場する様になってから、その辺がすごくデリケートになっちゃったしー」
ごく普通の女友達が絶対にしない話を始めるシェルシェとコルティナ。
「お互いに遠征しない内輪の大会だった頃なら、そんな面倒くさい心配もなかったんでしょうけどね」
話題が自分の結婚から離れた事にホッとしつつ、まだ完全には警戒を解かないエーレ。
「良くも悪くも、私達が大会のあり方を変えてしまいましたから」
少し寂しげに微笑むシェルシェ。
「一番最初のきっかけは、シェルシェがレングストン家とウチに単身でカチコミをかけた事だったねー。『不死身で無敵な殺人鬼』って二つ名だった頃のー」
「ふふふ、そのけったいな二つ名をでっちあげて広めようとしたのは、他ならぬあなたでしょう、コルティナ?」
「うふふ、シェルシェが大会に出なくなっちゃったから、あまり広められなかったけどねー。せっかくエーレと研究して作ったのにー」
「いや、私はそんなおかしな研究に参加してない!」
共犯の濡れ衣を着せられそうになり、あわてて否定するエーレ。
「エーレと一緒にホラー映画見たでしょー?」
「あー、アレ……今から思うと、あまり意味なかった様な……」
「ふふふ、二人はホラー映画で私を研究していたのですか?」
少し妖しく微笑むシェルシェ。
「コルティナに騙されたのよ! 恐怖心を克服する為だとか何とか言いくるめられて!」
「うふふ、でも試合中のシェルシェがホラー映画の殺人鬼みたいに怖い表情をしてたのは、紛れもなく事実だよー。アレはカタギの顔じゃなかったなー」
「怖がらせるつもりはなかったのですけどね。常に全力で試合に臨んでいただけで」
それからしばらくの間、三人は大会に初めて出場した時の懐かしい思い出話で大いに盛り上がり、
「今度の全国大会が終わったら、もう一度三人でこっそり集まりませんか? そこで――」
最後にシェルシェがとある提案をすると、
「いいよー」
「いいわ」
コルティナとエーレもそれに賛成して、この日のからかい、もとい密かな女子会はお開きとなった。