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ふわふわ魔女ことコルティナの予言通り、アフレコを終えた次の日には問題の三首竜の著作権を持つサムライの国の映画会社から、
「多少デザインが似ていても、作中でこちらの三首竜の名称を使っていなければ問題ありません」
という太っ腹な許可の返事が届き、これを受けてランゲ監督も、
「向こうの気が変わらぬ内に、映画を完成させて上映してしまいましょう!」
というかなり後ろ向きな理由ではあったが、何としても公開予定日に間に合わせようと、己の限界を超えたラストスパートに突入した。
その甲斐あってか、延期に延期を重ねた「劇場版エーレマークⅡ」は再延期する事なくギリギリ予定通りに完成し、ようやくこの無間地獄から解放された製作スタッフ一同も、疲労困憊で朦朧とした意識の中、ほっと胸をなでおろす。
しかしこの時点で映画の総製作費は当初の予定の三倍に膨れ上がり、そのツケをほぼ一手に引き受けるメインスポンサーのアウフヴェルツ社では、
「もし映画がコケたら、本件の責任者エーヴィヒはアウフヴェルツから追放」
という過酷な噂が流れており、それに負けじとアニメ製作会社の方でも、
「もし映画がコケたら、ランゲ監督はアニメ業界から永久追放」
監督一人に全責任を取らせる方向で、事態は緊迫の度合いを深めていた。
そして迎えた公開初日、「劇場版エーレマークⅡ」はどの映画館でも大入り満員となり、その一ヶ月後には黒字が確定、三ヶ月後には興行収入が膨れ上がった製作費の十倍を上回るという、エディリア映画史上空前の大ヒットとなる。
当然、最大の出資者であるアウフヴェルツ社にも莫大な収益がもたらされる事になり、その功績によって一躍英雄となったエーヴィヒは、例のゴールドに近い黄色のバラの花束を持ってレングストン家を訪れ、
「色々と心配をおかけしましたが、何とか追放は免れました。やはりエーレさんはアウフヴェルツ、いえ、私にとって幸運の女神です!」
爽やかな笑顔でエーレにそう告げた。
「べ、別に女神なんかじゃないんだから!」
歯の浮くセリフに不意打ちを食らい、思わずベタなツンデレモードになってしまうエーレ。
一方ランゲ監督はラストスパートの無茶がたたったのか、映画公開前日に倒れて緊急入院となり、
「映画館に行きたい! 観客の生の反応が見たい! だから外出許可をください!」
と医師に訴えるも、
「ダメです。当分安静にしてください」
当然却下され、三ヶ月間幽閉の身となっていた。