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漆黒の宇宙の中に青く輝く丸い地球。その地球に向かって、キンキラキンに光る輸送機がゆっくりと飛んで行く。
そんな壮大で静かで動きの少ない環境ビデオの様な場面に切り替わり、エーレ役の声優が歌うエンディングテーマ「ツンとデレはメビウスの輪の表と裏」が流れる中、やや遅れてエンドクレジットが下からせり上がって来る。
やがて画面が暗転してエンドクレジットだけになり、それが終わると歌がフェードアウトし、「劇場版エーレマークⅡ」はついに終幕を迎える。
色々な意味でインパクトがありまくりなシーンの連続だった本編に比べ、山奥にひっそり佇む古刹のごとき侘び寂びすら感じさせるこの静かな終わり方について、
「最後は観客の子供達に『物語の終わり』を感じてもらいましょう! 終わりがあるからこそ、楽しかった時間が一層強く心に刻まれるのです!」
目にうっすらと涙を浮かべて解説するランゲ監督本人こそが、「物語の終わり」を強く感じている事は想像に難くない。
ランゲ監督は何よりアフレコに夢中になる事に定評があり、これまで見て来た様に収録の合間に「ぼくのかんがえる王道ロボットアニメ」を熱く語り出したり、場合によっては台詞そのものをプロの声優が舌を巻くレベルで情感たっぷりに演じて見せる事も珍しくない。アフレコを心底楽しんでいるのである。
そんなランゲ監督にとっての楽しい時間も、いよいよ終わってしまう。
「いくら楽しくてもー、終わりがなかったらタダの無間地獄ですよねー」
ここで空気を読まず、シャレにならない冗談をしれっと言うコルティナ。
受け取り様によっては、製作期間が延びに延びている現状をモロに当てこすっているとも取られかねないのではないか。
そんな本物のエーレの心配をよそに、その場は大爆笑に包まれ、
「大幅な延期を許してくださった関係者の皆様には、心から感謝しています!」
気を悪くするどころか一番笑っていたランゲ監督が、一応フォローらしきものを入れた。
「おかげさまで、こうして最高の作品を創る事が出来ましたから!」
いやまだ完成はしてないだろ、と突っ込む人は誰もいない。「おおーっ!」という雄たけびと共に一斉に拍手が巻き起こり、何やら感動的な雰囲気が出来上がる。
心配していたエーレでさえも、
「ああ、皆で一つの作品を創るのってこんなに楽しいんだ」
と、つられて感動に浸ってしまう程に。
しかし拍手が鳴り止むにつれ、
「ツンデーレ! ツンデーレ! ツンデーレ!」
いつの間にか例のツンデーレコールが始まってしまい、一瞬で感動から醒めるエーレ。
「やっぱりラストシーンは、この『ツンデーレコール』でシめましょう! 皆さん、ブースに入って下さい! 今から追加で録ります!」
さらにランゲ監督が突然ロクでもない変更案を思い付き、少し気が遠くなるエーレ。