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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十八章◆◆ ちっちゃな剣士が操縦する巨大ロボットについてⅡ 「本編」
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◆580◆

 鉄砲玉よろしく敵を撃ち抜いて倒したはいいが、自力で止まれない為、そのまま広大な宇宙空間をキンキラキンに光りながら一直線に飛んで行くしかないシャイニングエーレ。海で泳いでいたら離岸流に巻き込まれて沖に流されてしまった幼女状態。


 そんな幼女のピンチを救うべく、体のあちこちが欠損してボロボロな姿に成り果てたエーレマークⅡが、最後の力を振り絞って後を追う。相手はちっちゃいがキンキラキンに光っているので見失う事はない。

 

 少しずつ距離が縮まり、並走状態になった所でエーレマークⅡがハッチを開けると、シャイニングエーレはその縁へ持っていた長剣を巧みに引っかけて身を寄せ、するりとコックピットに滑り込み、くるっと反転して無事シートに着座する。


 ハッチを閉じ、ずっと持っていた長剣と短剣こと二本のエーレニウム粒子増幅装置を手離すと、体からキンキラキンの光が消え、シャイニングエーレはようやく普通のエーレに戻る事が出来た。


 コックピット内に空気が再充填されて音声が聞こえる様になってから、


「エーレを守る剣であるべき私が、最後は逆にエーレを剣にしてしまったわね」


 エーレマークⅡが申し訳なさそうに話しかけ、


「べ、別にアンタの為に戦ったんじゃないんだから!」


 思わずベタなツンデレ口調で返すエーレ。ちなみにここが宣伝用の先行公開映像としてレングストン家の大会会場で何度も流されていたシーンである。


 ちょっと落ち着きを取り戻してから、


「あなたと私は一心同体よ。どっちが剣でも構わないわ。そうでしょう、マークⅡ?」


 ベタなツンデレ要素などなかったかの様に振る舞うエーレ。


「そうね。で、こうして任務は完了したけれど……」


 言い淀むエーレマークⅡに対し、


「分かってるわ。私達はもう地球に戻れないのね?」


 ベタなツンデレ要素などなかったかの様に微笑むエーレ。


「ええ、もう輸送機の所まで行く力が残ってないの。今の私はパイロットの生命を少し長引かせられるだけの棺桶でしかないわ」


「名誉な棺桶ね」


 絶望的なニュースにも慌てず騒がず、大悟の表情で目を閉じ、


「流石に疲れたわ……少し眠らせて」


 ベタなツンデレ要素などなかったかの様に、己の運命を潔く受け入れるエーレ。


「おやすみなさい、エーレ。あなたと一緒に最後まで戦えた事を、誇りに思うわ……」


 そんなエーレの為に、照明と計器類の光とモニターの画像を全て消し、コックピット内を真っ暗にするエーレマークⅡ。


 かくて全人類を救ったエーレとエーレマークⅡは、永遠に宇宙を漂う墓標となった。


 と思った矢先、ガン、と大きな音がして、エーレマークⅡの機体が大きく揺さぶられる。


「また、どこかに岩石がぶつかったの!?」


 寝入りばなを起こされたエーレが不機嫌そうに言う。


「違うわ、何これ!」


 エーレマークⅡが再び正面モニターを起動するのと同時に、


「お迎えに来ましたー! どうぞお乗りくださーい!」


 ここまでのシリアスな雰囲気を一気にブチ壊す素っ頓狂な声がコックピット内に鳴り響いた。


 モニター画像には巨大ペット用キャリーバッグ、もとい通信機能が壊れて地球の周りをひたすらぐるぐる回っているはずの輸送機の姿が映っており、その開いた扉からは一本のワイヤーが触手の様にこちらに向かって伸びていた。モニターでは近過ぎて確認出来ないが、どうやらワイヤーの先はエーレマークⅡの首に巻き付いており、そこから直接音声を伝達しているらしい。


「通信機能が直ったの? って言うか、あなたしゃべれたの!?」


 驚いて尋ねるエーレマークⅡ。 


「通信機能は壊れたままですが、目視で探し当てましたー。私にも高性能AIが備わっておりましてー、こうしてしゃべれますしー、状況を判断してスタンドアローンで行動する事も出来まーす」


「助かったわ! でも、もう私は動けないの」


「じゃあ、こちらから引っ張りますねー」


 首に巻き付けたワイヤーで引っ張られ、輸送機へ引きずり込まれるエーレマークⅡ。その姿は絞首刑に処された後、首に巻いたロープを馬に繋がれて引きずり回される罪人の死体に似ていなくもない。


 エーレマークⅡの機体を中に回収して、扉を閉めると、


「エーレさん、お手数ですがエーレニウム粒子増幅装置を私に挿入してくださーい! そうすればすぐ地球に帰れまーす! さ、一気に、ズブッと!」


 悲愴感のカケラもない声でエーレを促す輸送機。


「はあ」


 拍子抜けしたため息を一つついて、長短二本のエーレニウム粒子増幅装置を再び手に取り、


「だったら、最初からそう言ってよ! 死ぬかと思ったわ!」


 輸送機に文句を言いつつ、ハッチを手動で開けるエーレ。


「いやー、最後にバラした方が面白いかなー、と思ってー」

「そういう問題かあっ!」


 この人騒がせな輸送機の声を演じているのは他ならぬ友情出演枠のコルティナであり、


「脚本第一稿でのコルティナさんの役は、遊園地で風船を配っているスタッフのお姉さんだったんですが、実際にご本人にお会いして検討を重ねた結果、輸送機へジョブチェンジしてもらいました!」 


 というランゲ監督の強い意向によるものであった。


「何と言っても子供向け作品はハッピーエンドが原則です! 一度しんみりとさせてから、ドカンとハッピーエンドへ持って行くのに、コルティナさんのハッピーなキャラクターは正に打ってつけでした!」


 コルティナの場合、ハッピーなのはキャラクターというより頭ではないか。


 つい、そんな事を思いつつも、最後の重要な役どころを見事に演じ切ったコルティナの芸達者ぶりに感心する本物のエーレ。


 昔から優勝インタビューにかこつけた一人漫談で鍛えているだけの事はある。


 それが良いか悪いかは別として。

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