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一瞬にして左腕という超重要部位を、持っていた短剣もろとも破壊されてしまったエーレマークⅡ。その損傷被害の大きさにもかかわらず、コックピット内部に衝撃がほとんど伝わらなかったという事実が、逆に敵のスピードとパワーの凄まじさを物語っていた。
「腕が!?」
新たに開いた警告ウインドウによってエーレマークⅡの左腕の消滅を知り、愕然とするエーレ。
「大丈夫、腕がなくても動けるわ! それより気を付けて、エーレ! 頭か胴体をやられたらアウトよ!」
腕一本失っても動揺する事なくすぐに体を反転し、勢い余って遥か遠くに過ぎ去った頭部三号の姿を追うエーレマークⅡ。
その目を通してモニターに送られた拡大画像に、闘牛士に突っ掛かろうとする猛牛よろしく静止してこちらを睨み据えている竜の生首が映し出される。
「あいつ、また体当たりする気ね」
気を取り直し、生首の突撃に備えるエーレ。
「角度を微調整して照準が合ったら、一瞬でここに飛び込んでくるわよ」
敵の照準から逃れるべく、素早く横に移動するエーレマークⅡ。
次の瞬間、再びエーレマークⅡのすぐ左横を、ホームを通過する特急列車のごとく目にもとまらぬスピードで通り過ぎる頭部三号。
「片目だと照準が上手く合わないのかしら。先に奴の右目を潰しておいて正解だったわね!」
素早く反転し、頭部三号の赤く光る機影を目で追うエーレマークⅡ。
「でも下手な鉄砲も何とやら、よ。このまま体当たりを繰り返されたら危ないわ!」
モニターに映る生首画像をいまいましげに見据えるエーレ。
「剣が無いのが辛い所ね。どうする、エーレ?」
「さっき、あいつにぶつかって弾き飛ばされたもう一つの生首の位置は分かる?」
「ここから結構遠いけれど、まだ把握してるわ」
「そこへ行って、マークⅡ! アレを盾にするのよ!」
「生首には生首、って訳ね、了解!」
シュールな言葉と共に、宇宙空間を漂う頭部一号に向かうエーレマークⅡ。
その途中、頭部三号が何度も体当たりを仕掛けて来たが、そのスピード故に避ける事もままならず、ただ当たらない様に祈るしかないエーレ。
そんなエーレの祈りも空しく、ついに右膝から下をざっくり食いちぎられ、
「大丈夫、マークⅡ!?」
「平気、足なんて飾りよ!」
痛みを感じないロボットとはいえ、かなり痛々しい姿に成り果てるも、気丈に振る舞うエーレマークⅡ。
何とか頭部一号の所までたどり着くと、そのアゴの下からエーレマークⅡの右腕を突っ込んで巨大パペット人形の様に竜の生首を持ち上げ、
「名付けて、『レッドドラゴンカモン作戦』! 自分の分身と衝突して消滅するがいいわ! 」
超スピードで飛んで来る頭部三号に頭部一号をぶつける作戦に打って出るエーレ。昔、ヘビのパペット人形を両手に装着して互いに咬ませ合うコミック的なショウを披露するお笑い芸人がいたが、もちろんこの作戦とは何の関係もない。