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首も翼も尻尾も斬り落されて哀れなローストチキン状態に成り果ててはいるが、まだミサイル発射台としての機能が残っている大カリカリ魔竜の胴体に逃げ込まれたら面倒だ、とカリカリ博士の後を追うエーレとツンデーレマークⅡ。
しかし、ツンデーレマークⅡは突然停止し、
「もう追いかける必要は無くなったわ。あれを見て、エーレ」
自分の目が捉えた望遠映像をモニターに送った。
「え? な、何よ、これ……」
モニターを見たエーレが言葉を失ったのも無理はない。そこにはローストチキンと化してはいるがかつては自分の体だったモノを、何のためらいもなく餓えた野獣の様にガツガツと食っている頭部三号の様子が映し出されていたのである。共食いならぬ自分食い。
「本来なら胴体から発射されたミサイルからエーレニウム粒子を補充するんでしょうけれど、あの生首は見境なしに発射台ごと食べてるわ」
「見境なさ過ぎ。それって、鍋ごと料理を食べてる様なモンでしょうに」
モニターを見ながら呆れるエーレ。
「でも、これでもうミサイルは撃てなくなったわね。さて、カリカリ博士はどう出る?」
そう言ってツンデーレマークⅡが視線を少し手前に戻すと、万策尽きて飛行を停止し、呆然とこの惨状を眺めているカリカリ博士がモニターに映し出された。
「今度こそあいつも諦めたでしょう。ちゃっちゃと捕まえて、マークⅡ!」
「了解よ。死なない程度に掴んでやるわ!」
長剣の光の刃を消して柄を腰に戻した後、自由になった右手をわきわきさせながらツンデーレマークⅡがカリカリ博士の方にゆっくりと向かい始めた、その時、
「生首がこっちに来るわ、マークⅡ!」
自分の胴体をきれいに平らげた頭部三号が、どういう具合なのかフランベされた料理の様に青白い炎を全身にまといつつ、まだ食い足りぬとばかりにその大きな口を開き、ツンデーレマークⅡに向かって飛んで来た。
当然、その中間地点にいるカリカリ博士はあわてて回避を図るが、歩道に急に突っ込んで来た暴走トラックを避けようとする足腰の弱った老人の様なもので、到底逃げ切れそうにない。
「くっ! 私もよくよく運が無いっ!」
ほぼ自業自得な現在の絶望的状況を全て運のせいにしようとするカリカリ博士。
そんなカリカリ博士を救う為、もう一度頭部三号を吹っ飛ばそうとツンデーレマークⅡを急加速させるエーレだったが、三者の距離と速度の関係を考えると、どうしても頭部三号を吹っ飛ばす直前にカリカリ博士が食われてしまう計算になる。
「間に合わないわ、エーレ!」
「だったら、こうよ!」
頭部三号がカリカリ博士を食らおうとしたその瞬間、エーレはツンデーレマークⅡの右腕を伸ばし、思い切りカリカリ博士の体を引っぱたく。
結果、カリカリ博士は食われる事なく無事宇宙の彼方へと吹っ飛び、ツンデーレマークⅡは頭部三号との激しい正面衝突を余儀なくされた。
しかも悪い事に頭部三号の大きな口が右手首にがっつり咬みついてしまい、ツンデーレマークⅡはこの巨大生首から離れる事が出来なくなる。
ツンデーレマークⅡは右手を咬まれたまま、左手の短剣を頭部三号の鼻面へ突き刺そうと振り上げるが、頭部三号はパッと口を開いて後退し、これを避けた。
「今よ!」
「必殺、ネコミミカッター!」
その開いた口に向かって、すかさず例の二つの猫耳を発射するツンデーレマークⅡ。
頭部一号の時と同様に、このネコミミカッターに後頭部を貫かれて一巻の終わりかと思われた頭部三号だが、何と貫かれる前に素早く口を閉じて逆にネコミミカッターを噛み砕いてしまった。
必殺技が通用せず、さぞ落胆したかと思われたエーレとツンデーレマークⅡは、
「生首、グッジョブ!」
「これでもう、あのふざけた猫耳ともお別れね!」
むしろ要らない物を処分してくれた敵に感謝していた。




