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海の紺と雲の白が入り混じった巨大な地球の球面と、数多の星々が輝く無限の漆黒との狭間。
そんな神の視点と言っても過言ではない雄大なスケールの宇宙空間へ、場違いにも程があるキンキラキンのペット用キャリーバッグ型輸送機が面白コラ画像の様に紛れ込む。
「よし、無事周回軌道に乗ったな。宇宙に出てしまえば、もう過剰なパワーは必要ない。輸送機のエーレニウム粒子増幅装置をツンデーレマークⅡの起動キーと交換して出撃するのだ、エーレ!」
通信用ウインドウ内のムートの指示に従い、
「はい、お父様! マークⅡ、少しお腹を持ち上げて!」
「了解よ、エーレ!」
ツンデーレマークⅡを香箱座りから四つん這いの姿勢に持ち上げさせ、コックピットと床の間に脱出用のスペースを設けた後、自分の足元に刺してある二本の起動キーを引き抜き、それらを小脇に抱えてハッチを開け、ふわりと外に出るエーレ。
「おっと、無重力だと勝手が違うわね」
別の方向にふわふわと流されそうになるのを、エーレは素早くハッチの縁を片手でつかんで留まり、輸送機内の隅にある操作室の位置を確認し、そちらの方向へツンデーレマークⅡの体を軽く蹴って飛んで行く。
操作室の中に入り、持って来た二本の起動キーを無重力の空中にそっと浮かべると、中央にある座席の足元から二本のエーレニウム粒子増幅装置を引き抜くエーレ。
その途端、キンキラキンに輝いていた輸送機は輝きを失って元の白色に戻り、同じくキンキラキンだった操作室も一気に暗くなった。
赤く点滅している小さな表示ランプを頼りに持参した起動キーを床に刺すと、普通の照明が点いて再び明るくなり、
「次はこれをマークⅡに刺せばいいのね」
引き抜いたエーレニウム粒子増幅装置を持って、エーレが操作室を出ようとしたその時、
「衝撃に備えて、エーレ!」
突然、四つん這いで静止したままのツンデーレマークⅡが叫んだ。
とっさに操作室の座席にしがみつくエーレ。雷に怯えてお母さんの膝にすがりつくちっちゃな子供の様で可愛い。
一瞬の間を置いて、ガン、という大きな衝撃音と共に輸送機が大きく揺れる。
「何が起こったの!?」
座席にしがみついたまま問うエーレ。
「高速で飛んで来た岩石が輸送機をかすったの。サイズが小さいから、近くに来るまで察知出来なかったわ」
四つん這いのまま答えるツンデーレマークⅡ。
「敵の攻撃じゃないのね? 良かった」
が、その時、エーレがしがみついている座席の前に固定された操作用タッチパネルの画面に、
『アンテナが故障しました。通信及び遠隔操作が出来ません』
という警告が表示された。
「アンテナ?」
エーレの疑問に答えるかの様に、タッチパネルの画面に輸送機のCG画像が映し出され、損傷個所を示す部位が赤く点滅し始める。そこはペット用キャリーバッグで言うと、上部に付いている持ち手に当たる箇所だった。
「アレ、アンテナだったのね。外見をキャリーバッグに似せる為の意味の無い飾りかと思ってた」
今更納得するエーレ。
「遠隔操作が出来なくなったのはちょっとマズいわね。私達が出撃したら、外から輸送機をコントロール出来なくなるから」
心配そうに言うツンデーレマークⅡ。
「何か問題なの?」
「輸送機が周回軌道を外れて宇宙の彼方へ飛んで行ってしまったり、最悪、地球側に落ちて燃え尽きる可能性があるのよ」
「……私達が地上に帰れなくなるのね」
心配そうに言うエーレ。
「一応、輸送機には自動操縦機能も備わっている。周回軌道を回るだけなら大丈夫だ!」
ツンデーレマークⅡの通信用ウインドウ内のムートは何も心配していない様子。
エーレは操作室を出て再びコックピットに戻り、
「なら、私達は輸送機が軌道を外れる前に、さっさと大カリカリ魔竜を倒しに行って来ます!」
座席の足元にエーレニウム粒子増幅装置を勢いよく刺した。その瞬間、四つん這いのまま全身がキンキラキンに輝くツンデーレマークⅡ。
「私は『大丈夫』と言ったんだが」
自分の意見にこだわるムート。
「お父様の『大丈夫』は当てになりません!」
父親の意見を尊重しようとしないエーレ。
そして、このシーンを見ながら、
「その通り!」
と心の中で大いに頷く本物のエーレ。
自らもツンデーレマークⅡ役でアフレコの真っ最中につき、もちろん声には出さなかったが。