◆564◆
ライトアップされ、星空の下で幻想的に光り輝く夜の遊園地。
その広場の真ん中に突っ立って輸送機を待つツンデーレマークⅡと、それを遠巻きに取り囲んで光る棒を振りつつ声を揃えて「ツンデーレ」と叫び続ける野次馬、もとい外出自粛令を無視して応援に駆け付けた大群衆。
そこだけ見ればロボットアニメの実物大立像を展示しているイベント会場そのもので、今が人類存亡の危機の真っ只中とはとても思えない。
「輸送機はまだですか?」
そんな緊張感のカケラも無いお祭り騒ぎをモニターで見せられながら、通信用ウインドウ内の父ムートに向かって、頼んだ出前が中々到着しないのでイライラしながら店に電話する客の様に問うエーレ。
「輸送機は近海の無人島にある秘密基地から遠隔操作でそこまで飛ばしている。もうしばらく待て」
割と物凄い情報を淡々と伝える父ムート。
「秘密基地?」
「うむ。秘密基地は男子のロマンだ」
「そのロマンに掛かる莫大な費用はどこから」
「来たぞ、エーレ! 空を見ろ!」
無駄遣いに対する追及をはぐらかす様にムートが叫び、エーレがモニターで空を確認すると、遥か彼方から光り輝く巨大なペット用キャリーバッグが飛んで来るのが見えた。
その出オチなデザインだけでもインパクトがあるのに、さらにそれがキンキラキンに輝きながら夜空を飛ぶ姿に、お祭り騒ぎな群衆はますます盛り上がってしまう。
「この際、色々な事に目を瞑りましょう、エーレ」
そんなふざけた光景に軽くダメージを食らったエーレを宥めるツンデーレマークⅡ。
「……そうね。とにかく、宇宙へ行ければいいわ。キャリーバッグでもエコバッグでも」
地球環境に優しくなるエーレ。
輸送機は光る粒子を下に噴射しながらゆっくりとツンデーレマークⅡの前に着地し、「どうぞ、お乗りください」と言わんばかりに格子扉を開く。
「乗ればいいんでしょ、乗れば!」
やけになったエーレはツンデーレマークⅡを四つん這いにして輸送機に潜り込ませ、中でくるっと回して香箱座りをさせた。その一連の仕草の可愛らしさに群衆は大きくどよめく。
格子扉が自動で閉まると、輸送機は光る粒子を噴射しつつゆっくりと浮上し、
「いってらっしゃーい!」
「良い旅を!」
「バッグから落ちない様にね!」
エーレとツンデーレマークⅡがこれから宇宙へ何をしに行くのかすっかり忘れている群衆は、悲壮感が無いにも程がある声援と共にこれを見送った。
「このシーンの見所は『ライトアップされた遊園地』です! 決戦の前に、観客にはしばし幻想的な雰囲気に浸ってもらいましょう!」
ランゲ監督の言う通り、アホな内容の割には光と闇の綺麗な映像のおかげで幻想的に仕上がっているこのシーン、
「映画公開期間中、エディロランドとのコラボの一環として、広場にツンデーレマークⅡの実物大立像を展示する予定です! もちろん夜は遊園地と一緒にライトアップします! 実際に映画と同じ幻想的な雰囲気に浸ってもらいましょう!」
遊園地側に客寄せイベントのネタを提供する商業的な配慮もあったであろう事は想像に難くない。