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約二時間の改装作業を経て、ようやくチューンが完了した宇宙仕様のエーレマークⅡに向かい、
「立て、ツンデーレマークⅡ! 人類を救える者は、お前の他にない!」
仰々しく、ビッ、と指差して命令するムート。
が、ツンデーレマークⅡは地下格納庫の床に寝転んだままピクリとも動かない。
「どうした、ツンデーレマークⅡ? 駆動系に不具合が発生したのか、ツンデーレマークⅡ? それとも制御システムの異常か、ツンデーレマークⅡ? 教えてくれ、ツンデーレマークⅡ?」
「『ツンデーレマークⅡ』と呼ぶのはやめていただけませんか、お父様? せめて普通に、『新エーレマークⅡ』とか、『エーレマークⅡ改』とか、『エーレマークⅢ』とかにしてくださるとありがたいのですが。その方がバージョンアップした感じも出てますし」
寝転んだまま目の光を点滅させつつ、自分の名前について異議を申し立てるツンデーレマークⅡ。
「私も『ツンデーレマークⅡ』はやめた方がいいと思います、お父様。何度でも言いますが、重大な戦いの場に赴く機体におかしな名前を付けると気合いが削がれます」
既にコックピットに乗り込んでいるエーレもこれに同調する。
「しかし、もう大統領に『ツンデーレマークⅡ』と伝えてしまったのだ。そろそろ公式発表されている頃合いだろう」
「今すぐ訂正の電話を入れてください!」
思わず叫ぶエーレ。
「はたして間に合うかどうか」
作業用モニターを操作してテレビ画面に切り替えるムート。そこにはちょうど大統領が映っており、
「皆さん、どうか安心してください! カリカリ博士の狂った野望を打ち砕く為、戦闘ロボ『ツンデーレマークⅡ』をまもなく出撃させる予定です!」
全世界に向けて大々的に『ツンデーレマークⅡ』の名前を広めている真っ最中だった。
「間に合わなかった様だ」
「お父様あああああああッ!」
救援が間に合わずに仲間を死なせてしまった兵士の様な絶望の悲鳴を上げるエーレ。
諦めの境地なのか無言で横たわったままのツンデーレマークⅡが、
「エーレ、このやり場のない怒りは全部カリカリ博士にぶつけるわ!」
人類を救うというより個人的な八つ当たりに近い決意と共にむっくりと起き上がり、何かをふっ切った様に地下格納庫にすっくと立った。
基本的な外観は改装前とほぼ変わっていないが、手首、肘、肩、膝、足首に、無重力状態での位置と姿勢の制御を補助する為のリングが追加されている。
しかし何より目を惹くのは、頭の上に追加装着されたコスプレの猫耳の様な部品で、
「これは本当に必要な部品なんですか、お父様? もし『猫耳は可愛い』とかいう理由でしたら、今すぐ外して床に叩き付けたいのですが」
叩き付ける気満々でエーレが一応尋ねると、
「それは超高性能のエーレニウム粒子探知装置だ。広大な宇宙空間では索敵が難しくなるが、これさえあれば敵がたとえ月の裏側にいようとも、その位置を瞬時に特定出来る!」
意外にもまともな答えが返って来た。
「疑ってしまって申し訳ありません、お父様」
「時々猫が何も無い所をじっと見つめている事があるだろう。あれは『人の耳では探知出来ない音をキャッチしている』という説があって、それを参考にした」
「結局猫耳ですか!」
「犬耳の方が良かったか?」
「違う、そこじゃない!」
人類の存亡を賭けた戦いを前にしょうもない事で言い合う父娘。
このシーンに関して、
「『猫が何も無い所をじっと見つめているのは霊を見ている時』、という説もありますね!」
陽気に縁起でも無い事を言うランゲ監督。
「本当の所は猫に聞いてみないと分かりませんね」
そう言って軽く流しつつ、心の中ではランゲ監督の話を聞かなかった事にしようと必死に努力する本物のエーレ。