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「環境汚染、資源枯渇、地球温暖化、食糧危機、その他諸々の人類が直面している深刻な課題を解決するには、クリーンかつ強力な代替エネルギーが必要不可欠である!
「しかし、太陽光、風力等から得られる自然エネルギーは甚だ微弱であり、核融合エネルギーの実用化はまだ難しく完全にクリーンとも言えない! よって、今後も口では『エコ』を唱えつつ化石燃料や原発への依存を止められない『エゴ』に屈する状況がずるずると続くであろう!
「私の計算によれば、全世界の人口を現在の百万分の一以下まで減らさなければ、人類は滅亡する! よって今こそ大規模な粛清が必要なのだ!」
カリカリ博士の妄想にしか聞こえない荒唐無稽かつ物騒な演説は、エディリアの各家庭でも放送されており、
「計算おかしくねえか? 七千人以下だぞ、おい」
「全世界の総人口がいきなり小さな村の総人口レベルかよ」
「エネルギー問題より人手不足の方が遥かに深刻そうなんだが」
どこにチャンネルを変えてもカリカリ博士の顔しか映らない放送事故的状況の中、多くの人々はテレビ画面に向かって一々文句を垂れるしかなかった。ある意味普段と変わらない光景とも言えるが。
そんな人々の苛立ちなどどこ吹く風と、
「この『大カリカリ魔竜』には、一発で都市を一つ壊滅させる威力の小型ミサイルが千発搭載されている。十分な数だが、これで足りなければ予備の手段も用意しているので心配は無用だ」
ドヤ顔で人類粛清についての具体的な手段について語り出すカリカリ博士。
「カリカリ博士はあのロボットの内部に核ミサイルを所有していたんですか!?」
さっきまで正にそのロボットと何も考えずに思いっきり戦っていたエーレが父ムートに尋ねる。
「核ではない! エーレニウム粒子を使えば核に匹敵する威力でもっと小型のミサイルを作れるからな!」
自信たっぷりに断言するムート。
「確かですか?」
「ああ。現にカリカリ博士に盗まれた研究データの中には、私が設計したミサイルの図面も入っていた!」
「お父様ァッ!」
うっかり庭に侵入した見知らぬ人に向かって激しく吠える番犬の様に、うっかり天然ボケで全人類に迷惑をかけた父に向かって激しく吠えるエーレ。
この演説についてランゲ監督は、
「悪の組織の首領はとにかく上から目線で偉そうに説教したがるものです! 特に環境問題は格好のネタになってます! どこかの人達と似てますね!」
どこかの人達から怒られそうな事をしゃあしゃあと言ってのけた。
それがどこの人達なのか具体名を出さない辺り、最低限の思慮分別はあるらしかったが。