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順調に勝ち上がっている様に見えるが、試合が進むにつれて、綺麗に一本を決めにくくなって行くシェルシェを見ながら、
「最初は割とあっさり殺すけど、中盤以降は結構苦戦するよねー、ホラー映画の殺人鬼も」
と、相変わらず失礼な発言が止まらないコルティナ。
敗退した選手に対しても、
「おつかれー。いい試合だったよ。あの不死身で無敵な殺人鬼さんが、仕留めるまでにかなり手こずってたから」
励まし方が、やや不謹慎である。
「シェルシェさんの事を、あまり殺人鬼呼ばわりしない方がいいんじゃないかな。試合前にも本人から直々に注意されてたし」
見かねた選手が、そっと注意すると、
「そうねー。じゃあ、これからは、『不死身で無敵なシェルシェ』で」
「もっとひどくなってるよ!」
コルティナのふわふわした返答に、呆れて思わず笑ってしまうララメンテ家側の選手達。
そんなコルティナも、地味にふわふわと試合を勝ち上がっており、ついに決勝戦まで駒を進め、不死身で無敵なシェルシェと直接対決する運びとなった。
シェルシェの三冠制覇まで残す所あと一試合、マントノン家とララメンテ家の令嬢対決という要素も加わって、会場は大いに盛り上がる。
そんな活気づいた雰囲気の中で、コルティナは、
「うふふ、盛況盛況。不死身で無敵なはずのシェルシェが途中で敗退したら、その時点でお客さんの大半が帰っちゃうんじゃないかと、ちょっと心配だったけど」
「いや、私達がシェルシェさんに勝ったら、素直に喜んでよ」
そのふわふわ振りを他の選手に突っ込まれていた。
「ごめん。でも、『シェルシェを倒した人は、高級ホテルの極上スイーツ食べ放題』の約束はちゃんと守るつもりだったから」
「コルティナ以外、全員負けた後に言われても」
「じゃあ、終わったら残念会やろー。会場の近くに人気スイーツ店があるから、皆でそこに行って」
「試合する前から、自分が負ける事前提で計画を立てないで」
そうこうしている内に、いよいよ試合の時間となり、
「じゃあ行って来るねー。不死身で無敵なシェルシェは手強いけど、お客さんをドッカンドッカン盛り上げる様に頑張る」
「笑いを取ってどうする」
「うふふ」
「お願い、そこは『冗談だよ』と言って。不安になるから」
このふわふわしたお嬢様は、どこまで本気なのか冗談なのか、時々分からなくなる。
ある意味、不死身で無敵な殺人鬼よりタチが悪い。