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人型ロボットは全て倒したものの、三首竜型ロボット「大カリカリ魔竜」に乗ったカリカリ博士に宇宙へ文字通り高跳びされてしまったエーレは、父ムートの指示に従い、急遽レングストン家の本部道場の地下格納庫に引き返した。
「ただいま戻りました、お父様!」
一足先に戻っていたムートの目の前にエーレマークⅡを勢いよく着地させ、格納庫全体を大きく揺るがすエーレ。格納庫は音がやたら反響するのでうるさい事この上ない。
「よし、一旦エーレマークⅡから降ろすから、そこで少し待て、エーレ」
クレーンゲームのコントローラーに似た機械を操作して、格納庫の端にロープで吊るされているアーム付き円盤をエーレマークⅡの方に移動させるムート。
「自力で降ります! マークⅡ、仰向けになって!」
「了解!」
ムートの指示に反抗して、エーレマークⅡを床に仰向けにぐでんと寝そべらせてからコックピットのハッチを開き、ひらり、と床に飛び降りるエーレ。またクレーンゲームの景品扱いされるのがよっぽど嫌だった模様。
せっかく移動させかけたアーム付き円盤を少し残念そうに戻しつつ、
「今からエーレマークⅡをチューンする。これにより、エーレマークⅡは宇宙空間での戦闘が可能になるのだ!」
用意していた策について説明するムート。
「エーレマークⅡで宇宙まで飛んで行って、大カリカリ魔竜をやっつけるんですね!」
「だが残念ながら、エーレマークⅡ単体では宇宙まで行けないのだ」
「じゃ、チューンする意味無いじゃないですか!」
「心配するな。エーレマークⅡを運ぶ手段は別に用意した。エーレニウム粒子増幅装置により宇宙と地上を自由に往復出来る、エーレマークⅡ専用輸送機だ」
「でも、増幅装置はカリカリ博士に盗まれてしまいました!」
「予備にもう一つ作っておいたのを既に輸送機に刺してある」
「予備はそれだけですか? 実はまだ他にいくつも作ってませんか?」
「予備は一つだけだ。在庫が無いと見せかけて実は大量にストックしてある品薄詐欺はやらないから安心しなさい」
「いや品薄詐欺とかでなく、増幅装置がもう一つあれば、マークⅡも百倍にパワーアップ出来ただろうに、と思ったので」
「宇宙に出たら、輸送機から増幅装置を引っこ抜いて使えばいい」
「増幅装置を引っこ抜かれた輸送機はどうなります?」
「代わりにそれまでエーレマークⅡで使っていた起動キーを刺せ。宇宙と地上の往復は出来なくなるが、それ以外の輸送機の機能はそのまま使える」
「宇宙空間で大カリカリ魔竜を倒した後、再び地上に戻る時には、また輸送機に増幅装置を刺せばいい、と?」
「その通り。必要に応じて増幅装置を使い回すのだ。テレビのリモコンの電池が切れた時、エアコンのリモコンから一時的に抜いて使う様に」
「よく使う電池の予備くらいちゃんと用意しておいてください、お父様」
「エーレマークⅡのチューンには二時間程かかる。それまで休憩を十分とっておきなさい、エーレ」
「了解しました。チューンの方をよろしくお願いします」
「チューンされたエーレマークⅡ。つまりチューンド・エーレマークⅡ。チュンドェーレマークⅡ……」
「何の話です?」
「略して『ツンデーレマークⅡ』! チューン後のエーレマークⅡは『ツンデーレマークⅡ』と呼ぶ事にしよう!」
「重大な戦いの場に赴く機体に変な名前を付けるなあっ!」
思い切り抗議するエーレ。
そんな劇中のエーレにシンクロして心の中で同じ事を叫ぶ本物のエーレ。