◆557◆
海中から派手に姿を現した巨大三首竜型ロボットはそのまま勢い良く舞い上がり、エーレマークⅡより高い位置まで上昇して停止した。夕暮れ時の空を背景に金色の体が神々しく輝いている。
こうして巨大な竜がちっちゃなエーレマークⅡを見下ろす形で向き合った次の瞬間、
「その首、もらったあ!」
その巨大さに臆する事なく、二剣を構えたエーレマークⅡを突撃させるエーレ。
が、巨大三首竜はその大きな翼をエーレマークⅡに向かって、バサッ、とはためかせ、そこから大量に放出された光る粒子の旋風でエーレマークⅡを軽く吹き飛ばす。
「ぐっ……まだまだあっ!」
吹き飛ばされながらも懸命にバランスを取り戻し、再度突撃を試みるエーレマークⅡ。
その時、エーレマークⅡのコックピット内のモニターに新たな通信用ウィンドウが開き、
「無駄だ。あきらめたまえ、エーレ。君の乗っている『エーレマークⅡ』では、この『大カリカリ魔竜』には勝てない」
パイロットスーツ姿のカリカリ博士が映し出され、いきなり上から目線な事を言って来た。
「大『カリカリ』魔竜!? 組織だけじゃなく、ロボットにまで自分の名前をつけたの!?」
エーレマークⅡによる突撃を一旦停止し、カリカリ博士に言い返すエーレ。
「君も人の事は言えまい。と言うか、突っ込む所はそこなのか」
「ともかく、大人しく降参しなさい! 海に落っこちたあんたを回収しに行くのはすごく面倒そうだから!」
「大した自信だな。だが、安心したまえ、私がこれから向かうのは海ではなく、天だ」
「天?」
「そう。今からこの大カリカリ魔竜は天に昇る」
「は?」
「そして全人類を支配する神となる」
「……あんた、さっき海に落ちた時に頭でも打ったの?」
「落ちたのではない。『エーレニウム粒子増幅装置』を海底で待っていた大カリカリ魔竜にセットするべく潜ったのだ。この神の器たる機体を動かすのに必要不可欠な物なのでね」
「その必要不可欠な物を自分じゃ作れなかったから、また父が作ったのを盗んだって訳ね!」
「君の父上がいけないのだよ。エーレニウム粒子という神の領域にあるべき聖なる物質を、軽々しく誰でも扱える様にしてしまったのだから」
「何言ってるのかさっぱり分からないけど、全部父が悪いってのは同感だわ! そもそも父が何もしなければこんな事態にはならなかった訳だし!」
「さて、無駄話は一旦終わりにしよう」
カリカリ博士がそう言うと、大カリカリ魔竜はまた翼から光る粒子を大量に放出し始めた。
「マークⅡ、アレを食らわない様に気を付けて!」
「了解よ、エーレ!」
これに対しエーレマークⅡを素早く後退させて警戒するエーレ。
「ロケットを宇宙に打ち上げる為には大量の燃料を積んだブースターが必要だが、『エーレニウム粒子増幅装置』さえあれば――」
が、大カリカリ魔竜は先程の様に大量の粒子をエーレに向けず、全て下方に噴射し、
「――この機体のエーレニウム粒子だけで宇宙と地上を何往復でも出来るのだ!」
カリカリ博士が説明を終えるや、点火したロケット花火の様に急上昇し、あれよあれよと言う間に空の彼方へと消えてしまった。
同時にカリカリ博士の通信用ウィンドウもエーレマークⅡのモニターから消える。
「逃げられたわ! 追って、マークⅡ!」
「無理よ、とても追いつけるスピードじゃないわ、エーレ! それにいくら私でも宇宙まで飛ぶのは無理!」
焦って無茶振りをして来たエーレを窘めるエーレマークⅡ。
「じゃあ、みすみす見逃せって言うの?」
エーレがくやしそうに言ったその時、
「エーレ、至急、本部道場の地下格納庫に戻るのだ! こんな事もあろうかと、用意していた物がある!」
モニターの視界を大きく遮るサイズの通信用ウィンドウが開き、エーレの父ムートの顔が大アップで映し出される。
「だから、ウィンドウのサイズを縮小してください、お父様!」
同じボケを二度かます父に激しく突っ込むエーレ。
「と、言う訳でラスボス戦の舞台は宇宙です! 出来れば海中戦もやりたかったんですが、時間と予算の都合で泣く泣くカットしました!」
このシーンの解説にかこつけて自身が果たせなかった野望を語るランゲ監督。
「他にもロボットバトルをやりたかった場所は一杯あります! 砂漠とか! 荒野とか! 雪山とか! 無人島とか!」
いや、そのどれ一つとして首都エディロには無いだろう。
そう突っ込みたくなる衝動をぐっと押さえる本物のエーレ。