◆553◆
大規模災害発生時の避難所を想定して造られたエディロランドには大きな広場があり、普段はアトラクションに疲れた入園客がのんびりと休憩するのに最適な憩いの場所となっているのだが、現在その広場は約七十体の巨大ロボットが戦闘態勢を整えて占拠している為、あまり憩いたくない場所と化していた。
その憩いたくない広場の真っ只中に勢い良く飛び込み、ぴたり、と静止するエーレマークⅡ。
見渡せばそこかしこに、敵、敵、敵。それらが各々、剣、槍、薙刀、斧等の光る刃を備えた武器を構えてこちらをじっと見据えていた。
この殺伐とした状況とは裏腹に、穏やかに晴れた夕方少し前の青空の下、広場を覆う緑の芝は風にそよいでいる。
そんな嵐の前の静けさにも似た静寂がしばし続いた後、
「エーレマークⅡ、ゴォーッ!!」
コックピットの外まで聞こえるエーレの吠え声と共に、二剣を大きく広げて構えたエーレマークⅡが広場のど真ん中に突っ込んで行った。
これに応じて敵ロボットの群れも一斉に動き出し、ちっちゃなエーレマークⅡを押し潰す勢いで向かって来る。
エーレマークⅡは小回りとスピードを活かしてコマネズミの様にその間をすり抜けつつ、
「コルク抜き!」
「ピーラー!」
「くるみ割り!」
「缶切り!」
「アイスピック!」
操縦するエーレがやたら調理器具っぽい技名を叫ぶのと同時に、手にした二剣を縦横無尽に振るって次々と敵ロボットを撃破して行った。
「小さい子供達に親しみ易い技名をこちらで勝手に付けさせてもらいました。差し触りがある様でしたら、ここで名前の変更も可能ですが……」
自分が手がけている作品に対し、珍しく大幅な譲歩の姿勢を見せるランゲ監督。
「いえ、正式な技名ではありませんが、技の特徴をよく表していると思います。実際、有名剣士の技には分かり易い別名が付けられる事もよくありますし」
これに対して寛容を見せる本物のエーレ。よほどこのシーンが気に入った様子である。
「ありがとうございます。実は中二病っぽい小難しい技名も捨てがたいな、と考えていたんですけどね」
「中二病?」
「例えば、『降魔暗黒疾風怒涛斬!』とか、『羅刹雷鳴轟天閃光刃!』とか」
「やめてください。ウチの流派が一気に色物になってしまいます」
寛容な本物のエーレにもやはり越えられない限界は存在した。




