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ここからエーレマークⅡが敵の本陣を目指してエディロランドに急行するシーンとなるのだが、
「エーレマークⅡはあまり高く飛ばさず、ビル街をすり抜ける様に道路の少し上を滑空させます! スピード感溢れる映像で、観ている小さな子供達にしばしジェットコースター気分を味わってもらいましょう!」
というランゲ監督の意向により、一見急いでいる様に見えるが実際にはあまり急いでいない急行シーンになっていた。
それでも人間の視覚は不思議なもので、立ち並ぶ建物がビュンビュンと後方に過ぎ去って行く光景を見せられると、確かに空高く飛んでいる時よりも高速移動している様な錯覚を起こしてしまう。
「同じ速度なら地面に近い方が速く感じるんです! 普通の車よりも車高が低いレーシングカートを運転してる時の方が速く感じるのと同じです!」
どちらも運転した事がない本物のエーレにはランゲ監督の例えもピンと来なかったが、理屈より何より実際の映像を目の当たりにして、
「確かに怖い位のスピード感です。『よくこんな速度でどこにもぶつからずにロボットを操縦出来るなあ』、と観てる方がハラハラします」
その迫力に圧倒され、小さな子供の様に素直に感動していた。
「スピード感以外にも、移動するエーレマークⅡ視点で映し出される、リアルに再現された首都エディロの中心部の街並は、
『あ、あの建物、見覚えがある』
『ここ、いつも私が通ってる場所だわ』
『俺の勤め先もちゃんと映ってる』
などと、それだけずっと観ていても飽きない位の魅力を持っています!」
「検索エンジンで有名なIT企業が提供しているネットの全国地図と同じですね。選択した地点の実際の風景が見られるのでとても便利な」
「正にそれです! アレはついつい時間を忘れて見入っちゃいますよね!」
我が意を得たりとばかりに喜ぶランゲ監督。
かくして劇中では、待ち伏せする敵ロボットをエーレマークⅡが高速ですれ違いざまに次々と斬りつつ進んで行く展開が続いた後、
「あの看板を突っ切って、マークⅡ!」
「了解よ、エーレ!」
ショートカットを試みるべく、エーレはエーレマークⅡを道路の突き当たりにある巨大な看板に突っ込ませる。
「このシーンの狙いは、エーレマークⅡ視点でこちらに迫り来る巨大看板への恐怖から、それを突き抜けた次の瞬間、一気に広々としたエディロランドの風景が広がるという爽快感です!」
ランゲ監督の意図した通り、そのシーンでは恐怖から一転した爽快感が見事に表現されていたのはいいとして、
「でも、大丈夫ですか? よりによって、この会社の看板を思いっきり破壊してしまって」
本物のエーレが心配する様に、破壊されたのはよりによって「劇場版エーレマークⅡ」のメインスポンサーであるアウフヴェルツ社の看板だった。しかも商品の広告などではなく、企業の「顔」とも言うべき社名ロゴが大きく記載された看板である。
「スポンサーの看板だからこそ思いっきり破壊するんです! 観客に強いインパクトを与えればいい宣伝になりますし、有名な怪獣映画でも『巨大怪獣に建物が破壊されると縁起がいい』とされてますから!」
ランゲ監督の熱の入った解説に、
「本当に色々な世界があるものだ」
心の中でそうつぶやきつつ、いらない知識がまた一つ増えた本物のエーレ。