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「いかに戦闘シーンがロボットもののキモとはいえ、そればかり続くと小さな子供達はダレてしまいます。そこで合間にちょこっと『意外な展開』を暗示する場面を挟む事によって、『このドラマの結末を見届けたい』という気持ちをかきたてるんです!」
アフレコの合間にやたら熱のこもった解説をちょこっとどころではない分量で挟むランゲ監督。
「とあるサスペンス映画の巨匠も、『テーブルの下に仕掛けられた時限爆弾のカットを入れる事で、そのテーブル越しに行われる何気ない会話のシーンから観客は目を離せなくなる』、と言ってます! それの応用です!」
この応用理論に従い、エーレとエーレマークⅡ組のロボットバトルの合間に、大統領官邸から撤退した悪の首領カリカリ博士の現在の様子が挟まれる。
変態仮面、もといカリカリ博士は、既に黒いタキシードから黒いパイロットスーツに着替えを済ませており、ヘルメットはかぶらないが仮面を付けたままの状態で、ロボットのコックピットと思しき薄暗い場所でシートに深くもたれ、正面モニターに映るエーレマークⅡの映像を余裕の表情で眺めている。そして何故か片手にはワイングラス。
と、画面中央に連絡用ウィンドウが開き、カリカリ団の戦闘員の一人の顔がアップで映し出され、非常に焦った様子で、
「こちら警視庁! ロボット三体が全てやられました! 至急増援をお願いします!」
カリカリ博士に報告した。
「増援の必要はない。お前達も直ちにそこから撤退せよ」
「は? よろしいのですか?」
「こちらのロボットが一定数残っている限り、重要拠点はいつでも取り返せる。今一番避けなければならないのは、そのロボットの数を減らされる事だ。よって増援は送らず、ロボットについては一部を敵の足止めに回し、その間に残存兵力を全て一ヶ所に集結させて迎撃態勢を整える。分かるか? あの敵ロボット一体を倒しさえすれば我々の勝利なのだ」
「了解しました! では我々はこれよりそちらへ撤退します!」
そう言い残して戦闘員の連絡用ウィンドウが消えると、カリカリ博士は、
「ふっふっふ、実の所を言えば」
悪い笑みを口元に浮かべ、
「『エーレマークⅡ』を倒すまでもなく我々の、いや『私の』勝利なのだがな!」
妙に思わせぶりな事を呟きつつ手にしたワイングラスを軽く振り、グラスの中の赤い液体が軽く波打って揺れる様子が大写しになってシーン終了。
「このカリカリ博士の台詞は、『計画倒産して夜逃げする事を社員に黙っている悪い社長』風の感じでお願いします!」
カリカリ博士役の声優に、「それのどこが子供向けなんだよ」とツッコミたくなる様な指示を出すランゲ監督。
そんな色々と台無しな指示にきっちり応えつつ、子供向け作品の悪役らしさも出せる声優にプロ魂を感じる本物のエーレ。