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エーレとエーレマークⅡは敵ロボットの位置を示す地図を頼りに、「近くにいる奴から倒す」、という実にシンプルな戦術を採択し、
「いたわ! あそこよ、エーレ!」
「了解、一撃で終わらせるわ!」
獲物を狙う鷹の様に突然襲い掛かっては、手にした二剣を振るって時には首を刎ね、時には胸を刺し、時には両手両足を斬り落し、次々と相手を行動不能に至らしめて行く。
いきなり襲撃を受けた敵ロボットは派手に爆発する事もなく全機能を停止してその場に倒れ、その哀れな姿は生命を持たない無機質なロボットとはいえ、まるで通り魔の犠牲となった不運な一般市民の様に見えなくもない。
そんな犠牲者もとい犠牲ロボを一顧だにせず、
「この先は大統領官邸よ、エーレ! 重要な拠点だけあって敵ロボットが五体もいるわ!」
「つまり、一気に五体も潰せるのね! お得だわ!」
「ついでに捕まっている大統領とお父様も助け出しましょう!」
「ちょっとしたオマケ付きね! ますますお得だわ!」
一国の最高指導者と実の父親をついでのちょっとしたオマケ呼ばわりしつつ、地面スレスレに滑空し、まっしぐらに大統領官邸を目指すエーレとエーレマークⅡ。
しかしここに至って流石に警戒したものと見え、敵もエーレマークⅡの動きを察知し、周囲を見張っていた四体のロボットは官邸を見張る一体の元に集合し、五対一の戦力差で迎え撃つ事にした模様。
官邸を背に待ち構える五体の敵ロボットを前に、エーレマークⅡを一旦停止させ、
「一気にカタを付けるわよ、マークⅡ!」
もう一々「エーレマークⅡ」と言うのが億劫になってきたらしく、短く「マークⅡ」と呼んでいるエーレ。
「待って、エーレ! 官邸のベランダに誰かいるわ!」
そう言って、エーレマークⅡがコックピットの正面モニター内に別ウィンドウでベランダのズーム画像を提示すると、
「大統領! それにお父様も!」
そこに囚われの身である一国の最高指導者と実の父親が仲良く並んで立っているのが、エーレにも分かった。
両者とも既に縛めは解かれており、エーレの父ムートは手ぶらだが、何故か大統領は右手に拡声器を持っている。
五体の敵ロボットの内、真ん中の一体がこの二人の人質に対し、光る刃がまだ出ていない剣の柄の端を突き付け、
「大人しく我々に投降せよ! さもなくば、大統領その他一名の命は無いものと思え!」
と、エーレマークⅡに向かって呼び掛けた。確かにこの状態で光の刃が出れば、大統領その他一名は瞬時に、ジュッ、と燃え尽きてしまう。
さらに敵ロボットは人質の大統領にも、
「さあ、大統領、あのロボットのパイロットに向かって命令を出してもらおうか。『そこから降りてロボットをこちらに引き渡せ』と!」
と促した。大統領はゆっくり拡声器を口元に持ち上げ、少し震え声で、
「き、君、そこから降りて――」
と言いかけたが、その拡声器を隣にいたムートがひったくり、
「大統領も私も、当然、国の為に命を擲つ覚悟は出来ている! 私達に構わず悪を討て、エーレ!」
脅迫に怯む事なく、真顔でかっこいい台詞を叫ぶ。
「ちょ、お前!」
隣で大いに動揺する大統領。
「よくぞ言ってくださいました、お父様、それに大統領閣下!」
手にした短剣と長剣を前方に突き出し、一歩前に踏み出すエーレマークⅡ。
「言ってない!」
思わず突っ込む大統領。
「お二人のご覚悟は決して無駄にしません! 悪は必ず打ち滅ぼして見せましょう! どうか潔く死んでください!」
大統領を無視して戦闘態勢に入るエーレ。
「や、やめ」
「うむ、やれ!」
大統領の嘆願をかき消す様に、拡声器の最大ボリュームで返答するムート。
「行きます! お父様、死ねええええ!!」
父親に対して割とひどい言葉を興奮気味に叫びながら、エーレマークⅡを敵ロボットに突撃させるエーレ。
こうなるともう人質どころではなく、突っ込んで来る敵に対して剣を構えるだけで精一杯の敵ロボット五体。
まず、さっきまで二人に剣の柄を突き付けていた真ん中のロボットの胸を長剣で貫いて動きを止め、続いて左右から一気に襲い掛かる四体のロボットに対して、自分のしっぽを咥えようとしてグルグル回る子犬よろしく体を低く回転させ、相手の足を全て二剣で薙ぎ払う様に切断して転倒させた後、その頭部を上から容赦なくグサグサと突き、次々にトドメを刺すエーレマークⅡ。
一瞬で頼みの綱を断たれ、官邸を占拠していた他のカリカリ団の戦闘員達は、団の首領であるカリカリ博士の、
「ここは一旦撤退だ!」
という素早い判断によって、抵抗する事なくわらわらと官邸から逃げて行く。
「二人共、ご無事ですか!」
逃げる敵を深追いせず、一命を取り留めた大統領と父ムートに呼び掛けるエーレ。
「あ、ああ、無事だ。助けてくれた事には感謝するが、その」
と言いかけた大統領の言葉を遮る様にして、
「大統領閣下、私は引き続き敵ロボットの殲滅を行います。どうか許可を!」
自分の行動に大統領のお墨付きを求めるエーレ。
「そ、それは構わないが」
「ありがとうございます、閣下!」
そんなエーレに対し、まだ手にしていた拡声器で父ムートは、
「よくやった、エーレ。しかし実の父親に向かって、『死ねええええ!』、とはいかがなものか」
と抗議したが、
「今はそんな事を気にしている場合ではありません、お父様! 大統領閣下をよろしくお願いします! では!」
エーレはそれを無視してエーレマークⅡで空高く飛んで行く。
この大統領奪回のシーンについてランゲ監督は、
「あまり天然ボケばかり強調するのも申し訳ないので、ムートさんの為にかっこいい見せ場を作りました!」
とのたまったが、
「確かに普通なら武芸者が意地を見せるかっこいいシーンなんだけど、そこはかとなく私まで天然ボケにされてしまっている様な気が」
監督の演出の意図について頭を悩ませる本物のエーレ。