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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十八章◆◆ ちっちゃな剣士が操縦する巨大ロボットについてⅡ 「本編」
544/635

◆544◆

 こうして父ムートによるエーレ向け解説動画が始まったものの、


「今から約十年前の事だ。当時、科学者の一人としてエディリアのエネルギー問題に取り組んでいた私は――」

「お父様は武芸者で、しかも文系でしょう! いつ科学者にジョブチェンジしたんですか!」 


「そこで発見した未知のエネルギー粒子を『エーレニウム』と命名し――」

「勝手に私の名前を付けないでください!」


「『エーレニウム』粒子を動力源とする事に成功した私は、手始めに巨大ロボの製作に取り掛かった――」

「なぜ巨大ロボ!? 手始めに作る代物じゃないでしょう! エネルギー問題とまったく関係無さそうだし!」


「秘密を守る為、私は密かに本部道場の地下に巨大ロボ用の格納庫を作り――」

「神聖な道場の地下に、そんな大層な物を作らないでください!」


「しかし、この『エーレニウム』粒子の研究データが、ある日、エディリア征服を狙う悪の組織に盗まれてしまったのだ。研究中に私がうっかりクリックしてしまった『子猫大集合』という罠サイトに仕込まれたウイルスによって――」

「そんなサイトを大事な研究中に見るなあっ!」


「その悪の組織の首領の名前はカリカリ博士――」

「確かに猫が喜びそうだけど!」


「悪の組織の名前は『カリカリ団』――」

「え、組織に自分の名前を付けてるの、その人!? 」


「情報筋によれば、手に入れた『エーレニウム』粒子の研究データを基に、カリカリ団も巨大ロボを開発しているらしい――」

「だから皆、なぜそんなに巨大ロボを作りたがる!?」


 父のあまりの天然ボケぶりに、相手が録画である事を忘れてツッコミが止まらなくなるエーレ。


 もはやただの父娘漫才に成り果てたこの間抜けなやりとりは、巨大格納庫の壁に取り付けられている非常階段を駆け降りる足音で中断された。


 ハッとして、非常階段の方を見やるエーレ。


 そこにいたのは、黒いズボンに黒いジャンパーに黒いヘルメットに黒いサングラスの男が五人。それぞれ黒い特殊警棒を手に、こちらへと向かって来る。


「この巨大格納庫のセキュリティは万全だ。カリカリ団もここまではやって来ないだろう――」

「今、正にそのカリカリ団の人達が来てるんだけど! って言うか、階段で来れるなら、私がさっき無理やり滑り落とされたあのパイプは何だったの!」


 悠長な事を言っている解説動画の父を放置して、こちらへ向かって来る戦闘員達の方へ向き直り、手にしていた二剣を構えるエーレ。試合ではあまり見られない、両の腕を大きく開いて短剣と長剣を垂直に立てる構えである。


「刃は潰してあるけれど、打たれれば大ケガするわよ! 大人しく降参しなさい!」


 全く怯む様子も無く強気な警告を発するちっちゃなエーレを、五人で円を描く様に取り囲む戦闘員達は、手にした特殊警棒を振り上げたまま、じりじりとその円を狭めて来る。


 これに対し、二剣の位置を少しずつ変えながら、油断なく戦闘員達の動きに目を配るエーレ。


 と、左右から二人の戦闘員が飛び出し、それぞれエーレめがけて特殊警棒で打ち掛かった。


 エーレは二剣でこれらを受けてから、まず右の戦闘員の喉元に短剣を突き入れて倒すと、続いて左の戦闘員が特殊警棒を構え直す前に素早く体を反転させ、その側頭部に長剣を打ち込んでこれを倒す。


 さらに前方の戦闘員が振り下ろす特殊警棒を短剣で受けると同時に、相手の右脇を長剣で鋭く打って倒す。


 その勢いのままくるりと半回転し、後方から襲って来る戦闘員のみぞおちに長剣でカウンター突きを入れてふっ飛ばし、最後の一人が打ち込んで来た特殊警棒を二剣で絡め取る様に払い落す。


 敵わぬと見て取った最後の一人は恥も外聞もなくスタコラと逃げ出し、エーレはその後を追う。


 戦闘員は格納庫の隅に置いてあった物置に飛び込んでドアを閉めると、外から開けられない様に中からドアノブを押さえて籠城を決め込んだ。


 エーレは物置の側面に回り込み、長剣を中段に構えると、


「たあああああっ!」


 気合いの声と共に強烈な突きを繰り出し、物置の側面の壁を突き破る。


 さらに壁を突き破った長剣の先が、物置の中でドアノブを必死に押さえていた戦闘員のヘルメットの側面に突き刺さる。


 エーレが長剣を壁から一気に引き抜くと、物置のドアが、ギィ、と音を立てて外に開き、続いてそのドアの隙間から戦闘員の体が、ズサッ、と倒れる様にして出て来た。


 いくら何でもそれは無いだろう、と思わずツッコミを入れたくなるこの最後のコントの様なオーバーな演出について、


「このシーンは、もちろんあの有名な特撮ロボットもののオマージュです!」


 と嬉しそうに説明するランゲ監督だったが、もちろんエーレには何の事やらさっぱり分からない。


 ただ、自分が映画の中で剣を振るって活躍している姿に大満足だったので、その他の事はどうでも良かったらしい。

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