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巨大な会場で約五万人の観衆が見守る中、特別いつもと変わった事が行われる訳でもなく、小学生による剣術の試合が淡々と行われるだけ。
そんなチグハグ感の否めないシュールな光景から始まった、今回のララメンテ家の全国大会であるが、皆のお目当てであるシェルシェ・マントノンが登場するや、この大き過ぎる舞台が小さく思えてしまう程の圧倒的な存在感を示し、その場にいる全ての人間を魅了してしまう。
「大したものね。たった一人で、これだけの観衆の期待に応えられるんだから」
客席から試合を見ていたエーレ・レングストンが、感心と呆れが混じった笑みを浮かべて呟いた。
エーレの周りでは、今回出場を見送ったレングストン家の道場生達が何人か一緒に観戦していたが、これを聞いて、
「いや、エーレだって、その点では決してシェルシェに引けは取らないもん」
と、口にはしないが心の中で強く念じていた。
ペットの飼い主が、「ウチの子が一番可愛い」、と思ってしまう心理であるが、言うとエーレが怒るので誰も言わない。
「この分だと、上手く行けば、決勝戦でララメンテ家のお嬢様に当たる事になるね」
先のレングストン家の大会の決勝で、シェルシェに敗れたティーフ・エルンストはそう言って、別の面で同時進行中のコルティナ・ララメンテの試合に目を移す。
シェルシェが華麗に対戦相手を瞬殺して観客を沸かせていた一方で、コルティナは地味に試合を運び、危なげに勝利を収めていた。
「その前に敗退する可能性も高そうだけど」
その試合の様子を見てから、若干判断を厳しくするティーフ。
「コルティナは絶対決勝まで来るわよ」
エーレがその意見に反駁を加える。
「もしや、そうなる様に仕組まれているのか」
「まさか。性格に色々と問題がある子だけど、そこまで汚い事はしないわ」
先日のホラー映画鑑賞で散々怖い思いをさせられた件をまだ根に持っているエーレは、そう言ってから、
「多分、ここぞという見せ場を創る気でいるんでしょうね。それまでは手の内を極力隠す気よ」
試合を終えて他の選手達と話をしているコルティナの表情を、双眼鏡で探る様に観察する。
一体何を企んでいる事やら。
そんなエーレの思惑をよそに、当のコルティナは、
「シェルシェを倒した人は、高級ホテルの極上スイーツ食べ放題だからねー。皆頑張って」
選手達をスイーツで釣って鼓舞しており、選手達もそれに全力で釣られていた。
どうやら見せ場を創る事に、さほどこだわってはいないらしい。