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「この映画のメインターゲットは、あくまでも小さい子供なんです! 小さい子供はとにかく正直なので、冒頭から退屈な映像を延々と見せられたらすぐそっぽを向きます。なので、まず興味を惹くイメージを、バンッ、と冒頭に持って来て、『あ、はじまった!』、とスクリーンに釘付けにする必要があるんです!」
という、過去に子供向け人形劇の演出を担当した経験もあるランゲ監督の意向により、映画「劇場版エーレマークⅡ」は、エディリア共和国の首都エディロに実在する遊園地「エディロランド」の風景から始まる。
穏やかに晴れた青空の下、巨大観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップ、空中ブランコ等のアトラクションを楽しむ家族連れとバカップルで賑わう平和な園内の様子を映した後、
「興味を惹いたらすかさずインパクトが大きいイメージを、ドンッ、とかましてストーリーに引き込みましょう!」
そこに突如どこからともなく現れる悪の巨大ロボット軍団。最初はこれもサプライズな演出かと思って喜ぶ客達だったが、
「この遊園地は我々が乗っ取った! 速やかにここから退去せよ! 繰り返す、速やかにここから退去せよ!」
一体のロボットが警告を発するのと同時に、手にしている自動小銃風の武器からレーザービームが観覧車めがけて発射され、上昇しかけていたゴンドラを吊り下げている部分に命中。中でイチャついていた若いバカップルを乗せたまま落下し、勢い余って園内をゴロゴロ転がって行くゴンドラ。
客が悲鳴を上げて逃げ惑う中、ゴンドラはピンボールよろしくあっちの屋台こっちの屋台にぶつかりながら転がり続け、最後は柵を乗り越えてウォーターライド用のプールへドボン。魚雷が爆発した時の様に高く上がる水しぶき。
一応、平和な日常が唐突に破壊されるシリアスなシーンなのはずなのだが、どうしてもスラップスティックコメディー感が否めないこの演出に、
「何このバカ映画」
まだ出番がなく収録ブースの外で待機していたエーレは、心の中でそんな感想を漏らした。
その隣ではコルティナがツボにハマったのか、収録の邪魔にならぬ様に手で自分の口を塞いで声を殺しつつ、大いなる笑いに肩を振るわせている。
「はい、これでつかみはOKです!」
やたら満足げなランゲ監督。