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「終わってみれば、試合の内容より映画『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝の方が印象に残る大会になり果ててしまいました。全てコルティナの仕業です」
マントノン家の屋敷の書斎で前々当主にして祖父のクペに、今年の一連の全国大会について苦笑いと共に総括してみせる現当主シェルシェ。
「下手をすると観客の大半は、コルティナが今日の決勝戦でエーレ相手にどんな風に勝ったかすら、もう覚えてないかもしれないな。その直後の優勝インタビューと称した漫談に記憶を上書きされてしまった可能性が高い」
報告に今更気を悪くするでもなく、何かを悟った様な表情で応じるクペ。
「自身の優勝より観客を楽しませる事を重要視する辺り、コルティナは全くブレません」
「自身の優勝だけでなく、今回ララメンテ家の他の部も全て優勝に導いた功労者なのだがな。映画の宣伝に便乗して浮かれている様に見せかけて、裏では得意のデータ分析を駆使して選手達に的確な指導を行っていたのだろう」
「『見せかけて』と言うより、元々アレは浮かれる事で勢い付く女です。最近広告業界で幅を利かせているのも頷けます」
「なるほど、いかにもチャラい人間が多そうな業界だ」
ややひどい偏見と共にため息をつくおじいちゃま。
「ふふふ、浮かれるのとチャラいのとはちょっと違いますけどね。ともかく、マントノン家にはマントノン家の、ララメンテ家にはララメンテ家のイメージとカラーがあるのですから。浮かれ騒ぎはララメンテ家に任せて、私達は私達の道を行きましょう」
「とはいえ、今回はウチのミノンとパティもその浮かれ騒ぎに手を貸した様なものだ。さらに言うと、お前も映画にチョイ役で出演するのだろう?」
「ええ。大会が終わったので、すぐにアフレコです。エーレやコルティナと一緒に参加して来ます」
「ほんの一言か二言だけの出演なら、別録りではないのか?」
「プロの声優達と共に私達三人が声の収録をしている現場の写真が欲しいそうです。宣伝用に」
「とことん宣伝か。今年の大会そのものが、全部丸ごと映画の宣伝の様な気がして来た」
「ふふふ、確かにあまり褒められた状況ではありませんが」
シェルシェは妖しく微笑んで、
「大々的な宣伝が及ぼす影響力を測る上で、今回のケースはいい実験になると思います。これが上手く行ったならば、いつか私達も同じ手を使わせてもらいましょう」
またおじいちゃまを少し不気味がらせる発言をした。
言っている事は分からなくもないのだが、この孫娘が言うと何か人体実験でもやらかしている様なヤバさが伝わって来るのである。