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エディリア剣術御三家の中で最も生真面目なイメージのあるレングストン家が、今回の大会ではこれまでになく商業主義に毒され、もとい「劇場版エーレマークⅡ」の宣伝に力を入れていた事を受けて、
「お堅いレングストン家があそこまでやったんだから、柔らかさに定評のあるウチの大会としては、もっと派手に『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝をやりたいよねー」
エディリアの剣士の中で最もやりたい放題なイメージのあるコルティナが、またロクでもない事を言い出した。
「いや、そもそもウチと『劇場版エーレマークⅡ』は関係ないし。コルティナが映画に出てるって言っても、ほんの一瞬だけなんでしょ」
「無関係なウチが勝手に『劇場版エーレマークⅡ』の名前を使うと怒られない? よく知らないけど商標とかその辺の権利関係で」
「ってか、『柔らかさに定評がある』って何よ。ウチの道場は柔軟剤か」
効かないと分かっていても一応釘を刺しておくララメンテ家の本部道場の仲間達。
「無関係じゃなければいいんだー?」
「うん、もしウチが映画の資金提供とかアクションの監修とかしてたら話は別だね」
「でも資金はアウフヴェルツ社、アクションの監修はレングストン家がほぼ一手に引き受けてる訳でしょ」
「普通に考えて、アウフヴェルツ社とレングストン家のPR映画だよね。ウチが入る余地はないと思う」
「はい、そこで便乗商法ですよー、奥さん」
「誰が奥さんだ。あんたは通販番組の胡散臭い司会者か」
「便乗ってまさか、レングストン家の大会で売ってた『劇場版エーレマークⅡ』のグッズをウチの物販で売るつもり?」
「同人誌の委託販売じゃないっての」
「既存のグッズを売りさばいても二番煎じだよー。どうせ売るなら、新たに開発した商品を用意しないとー」
「しれっととんでもない事言いだしたよ、この女は」
「途方もない話だけど、あんたが言うと冗談に聞こえないから怖い」
「一応今はウチの全国大会に向けて全力を注ぐべき時期なのは分かってるよね? 新商品の開発なんかやってる暇ないよね?」
「ウチとつながりのあるアトレビド社にコラボの話を持ちかけるんだよー。お菓子のパッケージを『劇場版エーレマークⅡ』のイラスト入りの物に差し替えて期間限定で売るのー」
「軽く言うけど、それすごく大変な作業じゃない」
「一人のしょうもない思い付きで製菓会社の商売を自由にしようなんて、おこがましいとは思わんのかね?」
「パッケージ以前に、権利関係をクリアするだけでも時間と手間と費用がかなりかかるでしょうに」
「大丈夫ー、アトレビドのお偉いさんとエーヴィヒさんに話を通せば、権利関係はクリア出来るからー。パッケージの差し替えだけなら、物販コーナーで売る程度の数を大会開催までに何とか用意出来るよー。で、そこで売れ行きを見てー、好評ならそのまま正式に全国展開に持ち込んでもらうのー」
「お前はアトレビド社を裏から操る悪の幹部か何かか。一介のCMタレントじゃなかったのか」
しょうもない与太話が妙に現実味を帯びた大きなビジネスに化けそうになり、驚き呆れる仲間達に対し、
「うふふ、お祭り騒ぎには全力で乗らなくちゃねー」
商業主義をも利用して遊び倒そうと企むコルティナがふわふわと微笑む。