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穏やかな口調ではあったが、その意図を邪推して誇張すれば、
「お前んとこじゃ、ワシをホラー映画の怪物呼ばわりしてたそうやないかい。こんな花も恥じらう乙女をつかまえてフザけた事抜かしとると、チェーンソーでシバくぞ、ゴルァ!」
と、超翻訳出来なくもないシェルシェの発言に、コルティナは全く動じず、ふわふわとした口調で、
「シェルシェはララメンテ家にとって、ホラー映画に出てくる殺人鬼みたいなものだからねー。突然現れて、次々と立ちはだかる相手を倒していく、不死身で無敵な殺人鬼」
悪びれずに、むしろ倍プッシュして打ち返した。笑顔で。
「おいおい、これ大丈夫か」と、二人の周囲で緊張が高まる。
「ふふふ、面白い事を言いますね。でも、あまりそういうことは言いふらさないでください。不名誉な称号が付いてしまったら困ります」
確かに小学生女子にとって、「不死身で無敵な殺人鬼」とは、不名誉を通り越して、付けられた方が泣き出しかねない称号だろう。もうイジメの領域である。
コルティナは、ふわふわとした笑顔のまま首を横に振り、
「言わない、言わない。単なる言葉の綾だって」
「ふふふ、お願いしますよ」
シェルシェもそう言って微笑み、その場は何とか事なきを得た様子で、周囲もほっとしていたが、後でコルティナは選手達に、
「あんな事言ってたけど、シェルシェは元から全然怒ってないから大丈夫。ちょっとしたドッキリを仕掛けて皆をからかって、反応を楽しんでただけだから」
と、説明して安心させていた。小さい頃からの友人同士だけあって、相手の事はお互いによく分かっているらしい。
「でも、試合で対戦相手が手を抜いたら、本気で怒るかもね。あの不死身で無敵な殺人鬼さんは」
しかし、言いふらすなと言われたそばから、不名誉な称号をしれっと口にするコルティナに、選手達の心に一抹の不安が残る。
本当に分かっているのか、このふわふわお嬢様は。




