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「今回のレングストン家の大会で中学生の部の優勝、実に見事でした、パティ」
「お褒め頂き光栄です、シェルシェお姉様」
「試合後に流派間の垣根を越えて、『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝に協力したのも良い判断です」
「共存共栄こそが今後のエディリア剣術界の進むべき道であると考えています、お姉様」
「ですが、エーレ本人への過剰なスキンシップは控える様に、私はこれまで何度も何度も何度も何度もあなたへ言い渡して来たと思うのですが。違いますか、パティ?」
「違いません、お姉様」
マントノン家、レングストン家の大会と二連覇を成し遂げ、今年も天才美少女剣士としての力量をエディリア全土に知らしめた「大道芸人」ことパティ。
彼女は今、マントノン家の屋敷のお馴染みの地下室で、壁の上方に取り付けたフックから垂らしたロープに両手首を固定されて吊り下げられている。
早い話が、パティはシェルシェの命により「人間タペストリーの刑」に処されていた。
「同性間でも痴漢罪は成立するのですよ? 女性同士の場合は極めてレアなケースですが。それだけに事が露見した場合、大々的に報道されて人々の記憶に強く刻まれ、今後似た様な事案が発生する度に『ああ、マントノン家のパティのアレか』と引き合いに出されてしまうのです」
そのタペストリーを冷ややかな目で見る、姉にして現当主のシェルシェ。
「私は断じて痴漢ではありません、お姉様。可愛いものをついこの手で愛でたくなるだけで」
「それを世間では痴漢と言うのです、パティ」
「お姉様だって、愛しいヴォルフの頭をなでたり抱きしめたりするでしょう?」
「私とヴォルフを侮辱するつもりですか?」
「い、いえ、例えばの話です! そこにわいせつ性などは微塵もなく、ただ『愛おしい』という感情の赴くままに、体が自然に動いて、気が付けば対象に触れているという」
「その言い分は痴漢が自分の容疑を否定するどころか、力強く認めている様にしか聞こえませんが」
「痴漢ではありません! 動物園のふれあいコーナーでウサギを抱っこする様なものです!」
「百歩譲って、『動物園のふれあいコーナーでウサギを抱っこする様なもの』としましょうか。その際、ウサギをタペストリーでグルグル巻きにして体の自由を奪ってから執拗にいじくり回すのですか?」
「いえ、出来れば直に毛皮をモフモフしたい方ですが、タペストリー巻きのウサギもそれはそれで可愛いですね」
次から次へと阿呆な返答をする妹に対し、
「もういいです。そのままタペストリーになってしばらく反省してなさい。十分反省したら、得意の縄抜けで自力で脱出しなさい」
姉は真顔でそう言って、この人間タペストリーを壁に吊るしたまま地下室から去り、
「あの子には本当に困ったものです」
書斎に赴いて、前々当主にして祖父のクペに報告した。
「もう一々地下室に閉じ込めてお仕置きをするだけ無駄なんじゃないかという気がするんだが」
報告を受けて、パティの処罰方法に疑問を呈するおじいちゃま。
「そうですね。おじい様の言う通り、お仕置きがいつしか快感に変わって、パティがさらにアブノーマルな性癖に目覚めたら事です」
「いや、そこまでは言ってない」
よりによって孫娘とそんなディープな話はしたくない、と切に願うおじいちゃま。




