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先のマントノン家の大会で優勝した時には、試合を振り返っての感想と今後の意気込みについての無難なコメントだけに留めていたパティも、
「こちらのレングストン家が全面協力している映画『劇場版エーレマークⅡ』の公開を、私も楽しみにしています」
レングストン家の大会なら問題無いと判断したのか、優勝インタビューの最後に映画について軽く触れ、
「ほんの一瞬ですが、私の姉でありマントノン家の当主であるシェルシェも声優として友情出演するので、皆さんも是非チェックしてみてくださいね」
少々の茶目っ気を加えた宣伝をして観客をどっと沸かせていた。
「こういう事に関しては慣れたものね。流石はマントノン家の広告塔だわ」
パティの優勝を阻止する事が出来ず、やや落胆ムードのレングストン家の応援団の中で、映画の宣伝に協力してくれた事についてだけは素直に感謝するエーレ。
「でも問題はこの後よ。あの変態は映画の宣伝にかこつけて、私に何かよからぬ事を仕掛けて来るに違いない」
感謝しつつも警戒は怠らないエーレ。
映画の宣伝は大切だが、あの変態には近付きたくない。そんなジレンマに悩みつつ、何か身を守る良い策はないものかと考えながら、仲間達と共に会場を出ると、
「さあ、一緒に『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝をしましょう、エーレさん!」
案の定変態、もといパティが「劇場版エーレマークⅡ」のイラスト入りTシャツを着こんだ上にタイトルロゴ入りジャンパーを羽織って待ち構えていた。その背後には「パティとエーレのツーショットを撮りたい」と意気込んでいる記者達までしっかり引き連れている。
ここまでお膳立てされたらエーレも流石に逃げられない。
立ち尽くすエーレの元へ営業用スマイルの裏に邪心を宿したパティが一歩また一歩と近づいて来る。
このままだと、「試合が終われば敵も味方も無し! 流派の壁を超えた麗しきスポーツマンシップ!」などとという聞こえのいいキャプション付きで、白昼堂々のわいせつ行為の画像が明日のスポーツ紙を飾る事態になってしまう。
「せっかくですから、物販コーナーの前で取材を受けませんか? 宣伝効果も倍増ですよ!」
パティは既に大会運営スタッフにも話を通していたらしく、物販コーナーの方を見ると、一時営業を中断して二人の為に空きスペースを確保している様子。
確かに背景に関連グッズの類をずらりと並べておけば宣伝効果も高くなるが、それらのグッズに注意が分散する分、多少の痴漢行為も目立たなくなる。
絶体絶命のエーレだったが、ちっちゃくても高性能なCPUをフル稼働させ、
「パティ、このグッズの端を持って広げてくれない? 長いから、少し離れて斜めに掲げる感じで」
そこで売られていた商品の中から、縦が約一・五メートル、幅が約0・五メートルの、エーレとエーレマークⅡのイラストが手前と奥に並べて描かれている長いタペストリーを選び取り、これを利用してコルティナを遠ざける策に打って出た。
イラストがちゃんと提示される為には二人でタペストリーを縦横にピンと張る様に伸ばさなければならず、必然的にエーレとコルティナ間の距離が開く事になる。しかも両手はタペストリーをしっかり持っていなければならない為、不埒な行為には及べない。
「ご厚意に甘えて、ウチの映画の宣伝をさせて頂きます」
正に死中に活を見出したエーレは、そのままの状態を保って記者の質問に笑顔で応じていたが、
「それにしても大きなタペストリーですね。エーレさんを楽々包めてしまえそうです」
突然パティがそう言ってエーレの背後に回り込み、蜘蛛が獲物を糸で捕えるが如く、ちっちゃなエーレにタペストリーをぐるんと巻き付けてしまった。
身動きが取れなくなったエーレの背後から抱きつき捕食、もとい頬ずりするパティ。手はタペストリーを押さえながら、エーレの体を器用にまさぐり始める。
まさか悲鳴を上げて助けを求める訳にもいかず、取材が終わるまで無理に笑顔を作った状態でこの変態のなすがままにされるエーレだった。