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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十七章◆◆ ちっちゃな剣士が操縦する巨大ロボットについてⅠ 「宣伝」
526/631

◆526◆

 会場の内より外の方が盛り上がった小学生の部は、レングストン家の選手が他家からの遠征組を退けて優勝し、


「本番はこれからだ。中学生の部はパティ、高校生の部はミノンが、こないだのマントノン家の一般の部のリベンジにやって来るぞ」

「一般の部にはマントノン家から誰も遠征しないらしいから、中高生の部は何としても制圧しておきたい所だろうな」

「意表を突いてマントノン家の当主自ら一般の部を制圧しに行ったりして。もしそれが実現したら、チケットの値段が十倍でも観に行くわ」


 世間の人々は御三家間で様々に絡み合う裏の事情に思いを馳せつつも、結局の所「スター選手の活躍が観られればどうでもいい」という感じで盛り上がって行く。


 続く中学生の部ではパティ目当ての客が巨大会場の観客席を隙間なく埋め尽くして、「大道芸人パティ」のイラストを描いた自作の応援旗をそこかしこに掲げており、レングストン家の大会なのにパティの応援の方が多いという逆転現象が起こっていた。


「すっかり応援旗作るのが定着しちゃったねー。ウチももっと対抗出来る物を作って来ればよかったかなー」


 そんな観客席の一角を占めるララメンテ家の応援団の中にぽつんと一人、黒い帽子に黒いローブ姿の魔女コスプレをしているコルティナが、茶色の粒々を固めた画板位の大きさの板状の菓子を手にそんな事を言う。


「下手に何か作っても、あれだけパティの旗があるとあんまり目立たないだろうなあ」

「それよりあんたが持ってるお菓子の方が、観客の注目を集めてると思うよ」

「あれだけの量の旗にそれ一枚だけで対抗出来るってのもすごいわ」


 その茶色い菓子の一口サイズ版を食べながら答える周囲の仲間達。


「これはねー、『おこし』って言って、とても縁起のいいお菓子だよー。小さく切らずに板のままの物をアトレビド社から特別にもらって来たんだけど、ちょっと食べにくいかなー」


「うん、大きな板をかじってる様に見える」

「茶色いから遠目には大麻樹脂と間違えられるかも」

「そんな物を応援団全員でキメてたら、ここで行われる全試合より注目を集めるわ。悪い意味で」


「みんな何気に風評被害だねー。私が違法薬物をやってる様に見えるー?」


「見える」

「見える」

「やってるとしか思えない」


「ひどーい! そんな事言うんだったら、本当に違法薬物に手を出してやるー!」


 持参した紙袋から透明な包装紙にくるまれた一口サイズの細長い小判形の煎餅を取り出して、


「このお煎餅には、一度口にしたらやめられない中毒性の高い白い粉がまぶしてあってねー」


「知ってる。前にもらったし」

「違法薬物じゃないだろ、それ。確かに中毒性高いけど」

「好きなだけ食え。誰も止めないから」


「こうなったら皆も道連れだよー。袋回すから好きなだけ取って行ってー」


 パティが華麗な剣技を披露して勝ち進むごとに会場が熱狂に包まれる中、ララメンテ家の応援団はのほほんとお菓子を食べながら、自分の所の選手が負けても、


「ドンマイ。ま、これも人生さ」

「いつだって明日がある。明日から本気出そう」

「嫌な事はお菓子食ってお茶飲んで忘れちゃえ」


 周囲の熱狂などどこ吹く風とばかりにゆるふわなノリで声援を送り続け、途中、コルティナが用意して来た横断幕を広げて、そこに書かれている、


「私、この大会が終わったら、とあるロボットアニメの映画を観に行くんだ」


 という相変わらず応援とは程遠い訳の分からない文章を見て、


「だからここで映画の宣伝をするなと何度言えば」

「しかも微妙に死亡フラグだし」

「この場合、どっちの死亡フラグだろ。発言者? それとも映画自体?」


「ここだけの話、『劇場版エーレマークⅡ』の製作はかなり遅れ気味で、今は修羅場の真っ最中みたいだからねー。そんなスタッフさん達への応援も兼ねてー」


「兼ねてない兼ねてない。むしろプレッシャーを与えてないか。借金取りが債務者を追い詰める感じに」

「そもそも、鬱な状況にいる人に『頑張れ』は禁物だし」

「て言うか、スタッフよりウチの選手を応援しろ」


 などとしょうもないやりとりをしている内に、その年のレングストン家の中学生の部はパティの優勝で幕を閉じていた。


 コルティナを筆頭に、ララメンテ家の人達は今日も通常運転。

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