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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十七章◆◆ ちっちゃな剣士が操縦する巨大ロボットについてⅠ 「宣伝」
525/631

◆525◆

 エディリア剣術御三家の全国大会は、いずれも小学生の部からひっそりと幕を開ける。


 二年前にパティが中学に上がってスター選手不在となってからは、客の少ない小さな会場で終始ほのぼのした雰囲気の中で行われるのが通例だが、


「今年のレングストン家の大会は、全ての会場で『劇場版エーレマークⅡ』の一部を先行公開するんだってよ」

「『劇場版エーレマークⅡ』とコラボした公式グッズも販売するらしいぜ」

「行くんだったら、一番空いてる小学生の部が狙い目だな!」


 その年のレングストン家の小学生の部に限っては、映画の先行公開映像と関連グッズにつられた客が押し寄せて大盛況となった。ただし、会場の外に設置された大型モニターの前と物販コーナーに限っての話である。


 一方会場内では、応援に来ていた出場選手の親達が、


「何だか外の方が騒がしいわね」

「映画の先行公開映像を観てグッズを買い漁ってそのまま帰るだけの人が多いんだろ。試合は一切観ずに」


 我が子の試合をまるでおまけのシールだけ取り出した後で食べずにそのまま捨てられる子供向けお菓子の様に言い、


「今はまだ混んでるけど、空いて来たら私達も行ってみましょうか。映画も気になるし」

「そうだな。今日の記念に何か買っていくか」


 お祭りムードに踊らされて、普段買わないグッズに興味を示し始める始末。


 このお祭りムードの仕掛け人ことエーヴィヒは大会開幕直前、まだ観客が入っていない会場の外でエーレに、


「大事な大会を映画に利用させて頂く事をどうかお許しください」


 と、やや申し訳なさそうに詫びを入れていた。


「こちらも映画と正式にコラボしていますし、当主である父や古参の役員達も『エーヴィヒさんのやる事なら間違いないだろう』と洗脳され、もとい納得していますので特に問題はありません」


 映画製作の遅れによって必要な追加資金の額が雪ダルマ式に膨らむという裏事情をよく知っている事もあり、エーヴィヒのグッズ商法に寛容な態度を示すエーレ。


「そう言って頂けると助かります」


「ただ、あの先行公開映像はもうちょっと何とかならなかったのでしょうか」


 エーレが顔を向けた先に設置されている大型モニターには、戦闘ロボ『エーレマークⅡ』の美麗かつ迫力のある戦闘シーンが、重厚な効果音とノリのいいBGM付きで映し出されていた。


 と、場面が『エーレマークⅡ』のコックピット内に切り替わり、パイロットスーツ姿のエーレがアップになって、強気かつ恥ずかしげな口調で、


「べ、別にアンタの為に戦ったんじゃないんだから!」


 エーレファン待望の決め台詞を叫ぶ。もちろんエーレ本人の声ではなくエーレ役の声優の声で。


 先行公開映像は全部で五分程あり、大会開催期間中はずっとこの映像を大型モニターでループ再生する予定らしい。つまり約五分に一回、このステレオタイプなツンデレ決め台詞が大音量で流れる事になる。


「そうですね。本当ならエーレさん本人の声で聞きたかった所ですが」

「違う、そうじゃない!」


 わざと論点をずらしてからかうエーヴィヒに、つい寛容さが消えるエーレ。


 その後エーレは大会の間中ずっと、この大型モニターに近寄ろうとはしなかった。


 その様子はさながら獣医さんの前の道を散歩するのを嫌がる犬の様であったという。

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