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「今頃エーレは私を倒す為の特訓って名目で、エーヴィヒさんとイチャイチャしてる真っ最中だろーねー。なんてハレンチな人達なのかしらー」
「あんたの頭の方がよっぽどハレンチだよ」
失礼かつしょうもないが実は当たらずといえども遠からずな妄想をふわふわと口にするコルティナに対して仲間からすかさずツッコミが入る。そんなララメンテ家の本部道場における大会前の日常風景。
ただ例年と少し違うのは、他家の大会に共に赴いて戦う同世代の仲間達からコルティナへ、「しょうもない事言ってないで、さっさと指導しろ」、という催促がなくなってしまった事である。
「去年までは一緒に他家を襲撃してた同志達も、結構足を洗ってカタギになっちゃったから寂しいなー」
「残った私らをカタギじゃないみたいに言うな。ここはどこぞの暴力団の事務所か」
「それに御三家で不可侵条約を結んだんでしょ? 『一般の部は基本的に他家に遠征しない』って」
「でも、客が呼べるあんたとエーレは条約適用外。レンタルされるパンダみたいにね」
「私とエーレはちょっとした絶滅危惧種だねー。密輸したらお金になるかなー」
「いっそ剥製にされてしまえ。貴重な標本として博物館にでも展示されろ」
「エーレならペットとして飼いたいって需要はあるかも。ちっちゃくて可愛いし」
「もう売約済みでしょ。エーヴィヒさんに」
コルティナにつられて軽口を叩き笑い合う仲間達。遠征しないので気楽なものである。
「そのエーヴィヒさんの為に、エーレは全力で私を迎え撃つよー。ここで二冠を達成すれば、エーヴィヒさんが深く関わってる『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝はほぼ完璧になるからねー」
「逆に言えば、自分の所の大会で優勝を逃したら『劇場版エーレマークⅡ』の宣伝もトーンダウンする訳だ」
「フィクションと現実をごっちゃにするのはアレだけど、エーレ本人が主人公って設定の映画だし」
「だからと言って、映画の宣伝の為にわざと負けるのは絶対に無しだからね。まあ、流石にコルティナもそんな恥知らずな事は絶対やらないだろうけど」
「やらないよー。私にだって信念と誇りがあるものー。出るからには空気なんか読まずに、優勝を目指すよー」
「あ、気を悪くしたらごめん」
「不可侵条約とか大人の事情が見え隠れしてて、ちょっと悲しくなってたから、つい」
「でもよく言った。空気なんか読まずに頑張って」
「優勝インタビューで披露しようと考えて来たネタをお蔵入りさせ続けるのは悲しいからねー」
「それがお前の信念と誇りの正体か」
「いっそ蔵ごと封印してしまえ」
「前言撤回。空気読め」
そんなお約束なやりとりをしている所へ、中学生の部の遠征組の代表がやって来て、
「すみません、コルティナさん、私達の指導をお願い出来ますか?」
「いいよー。じゃ、ちょっと行って来るねー」
ふわふわとその場を後にするコルティナ。
「コルティナはあのまま変わらないんだろうなあ」
その後姿を見ながら、どこかほっとした表情になった後で、
「いいか悪いかは別として」
オチを付けて茶化し、笑い合う仲間達。