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例年、剣術の名門ララメンテ家の小学生の部の全国大会は、本部道場近くの小さな市民体育館を借りてささやかに行われるのだが、今回は三家制覇に王手を掛けた「天才美少女剣士」ことシェルシェ・マントノンが外部から乗り込んで来るとあって、世間の注目を集めていた事を視野に入れ、首都エディロの中心部にある巨大競技場が会場として使用され、五万を超える観客席もほぼ埋め尽くされるという、異例の事態となる。
「うふふ、シェルシェのおかげで大盛況よー。本当に感謝するわ」
女子控室で、ララメンテ家令嬢のコルティナはシェルシェの手を取って礼を述べ、満面の笑みを浮かべた。
「ふふふ、お役に立てた様で何よりです。ですが、会場選択について、ララメンテ家は随分思い切った措置に踏み切りましたね」
シェルシェも微笑んでそれに応える。
「ウチみたいなマイナー道場は、稼げる時に稼いで、宣伝出来る時に宣伝しておかないとねー。武芸ブームもいずれ終わるでしょうし」
ふわふわしている割に、シビアな一面も見せるコルティナ。
「マントノン家も事情は同じです。いずれお互い、ブーム終了後の対策を考えないといけないでしょうね。ところで」
「なーに?」
「選手の皆さんは、今大会の出場に当たって、私への対策に重点を置いてくださったそうですが」
「それはそうよー。ララメンテ家にとって、外部から来た最大の強敵だもの」
「ふふふ、お褒めに預かり光栄です。技術面のみならず、精神面でもユニークな特訓法を採用していたとか」
「そうね。メンタルトレーニングに関しては、かなり力を入れた方かな」
「定期的にホラー映画の観賞会をしていたのも、その一環ですか?」
シェルシェが微笑みながら口にした言葉に、周囲でこの二人の会話を聞いていた選手達の間に、一瞬気まずい空気が流れる。
しかし、コルティナは、ふわふわとした口調を崩さず、
「うん、何が起こっても動じない心を、ホラー映画で鍛えようと思って」
実際は皆で選んだバカ映画の鑑賞会と化しており、会場は常に爆笑の嵐だったのだが。
「ふふふ、私を怪物や殺人鬼に見立てるなんて、ひどい事をしますね」
それを聞いて、口には出さないが、「あちゃー、本人にバレてたよ」、な気まずさで胸が一杯になる選手達。
男の子同士だと、この手の事は笑って済むが、女の子同士だと、ちょっと洒落にならない場合もある。




