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「マントノン家で一般の部の大会に出る選手ともなると、皆風格があるよね。大人っていうか。まあ大人なんだけど」
「その中で一人浮いてる奴がいるんだが。ふわふわとしててその存在自体が場違いなのが。授業中の学校に迷い込んだ何も考えてない野良犬みたいに」
「あ、それいい。『八代目ふわふわ魔女』とかいう訳の分からないキャラより、『学校に迷い込んだ犬』の方がしっくり来るわ」
熱狂の渦に包まれた観客席の一角で、そこだけ妙に醒めた女子の一団がコルティナの試合を見ながら好き勝手な事を言い合っていた。去年の高校生の部まで全国大会に出場していた、コルティナと同世代のララメンテ家の元選手達である。
やがてその彼女達の視線の先で「何も考えてない野良犬」ことコルティナが、「風格がある」マントノン家の選手から二本目を奪取して勝利を決めるや、大きな歓声が湧き上がり、あちこちで「八代目ふわふわ魔女」のイラストが描かれた応援旗が、風の強い日に干した洗濯物の様にばっさばっさと翻る。
「学校に野良犬が迷い込むと生徒のテンション上がるよね。ちょっとしたお祭り騒ぎになったりして」
「はは、正に今の状況がそれだわ。教職員は犬を追い出そうと大わらわだけど」
「生徒は犬の味方をして、『いいぞ、もっとやれ』って無責任に囃し立てるのよね」
コルティナの勝利に拍手を送りつつ、言いたい放題の元選手達。
「でも、色々な背後事情があるにせよ、一人で他家に乗り込むってのは寂しいかも」
「一人だと例の、『あの選手を倒した人は高級ホテルの極上スイーツ食べ放題!』も出来ないし」
「ああ、あったねえ、そんなの。今となっては、何もかも皆懐かしいわ」
そんな彼女達も会場内の興奮がやや収まると、少ししみじみとしたムードになり、
「色々ツッコミどころはあったけど、コルティナと一緒に全国大会に出れて、結構楽しかったかな」
誰かがぽつりとそんな事を言った。
普段ならここで一斉にツッコミが入りまくる所だが、しみじみムードに支配されたのか、彼女達はあえて何もツッコまず、懐かしそうに微笑むのみにとどまった。
ちょうどその時、試合を終えたコルティナが、ララメンテ家の公式応援団の方に向かって何かを合図する様に右手を高く上げ、主に高校生以下の後輩達から成る応援団は、その合図を受けて恒例の横断幕を掲げた。そこには大きく、
「全エディリアが泣いた! 感動巨編! 近日公開!」
と書かれており、観客席からは待ってましたとばかりに大きな笑いが巻き起こる。
「よそ様の全国大会で、何やってんだアンタ!」
「ここであの映画の宣伝やったら流石にアウトだろ! どうせ『映画とはどこにも書いてなーい』とか言って逃げる気なんだろうけどさ!」
「ってか、『近日公開』なのに、なんでもう『全エディリアが泣い』てるんだよ!」
そんな元選手達からのツッコミも大観衆の無責任な笑い声の中にかき消されて行く。
大会に出ても出なくても、彼女達とコルティナの関係は変わらなかった。