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「そんな訳で、アウフヴェルツ社の資金で製作されるレングストン家のプロパガンダ映画に、私もモブ役で出る事になりました」
コルティナが帰った後、書斎に赴いて前々当主にして祖父のクペに、「劇場版エーレマークⅡ」への出演を承諾した事を報告する現当主シェルシェ。
「それは、例のエーレが主役を務める子供向け娯楽アニメ映画のことだな?」
孫娘のおかしな言い回しに面食らい、一応確認するおじいちゃま。
「ふふふ、映画に出て来る剣の戦闘シーンは全てレングストン家の剣術をベースにするそうです。ですからある意味、レングストン家の理念を観客に刷り込む映画と言っても過言ではありません」
「刷り込みは言い過ぎだが、確かにレングストン家にとってはいい宣伝になるだろう。その商売敵の宣伝に、マントノン家の当主たるお前が協力するのか」
「エーレは商売敵のマスコットキャラである前に、私にとって幼少からの大切な親友です。商売は商売、友情は友情というスタンスを世に知らしめておくのも悪くない、と思いまして」
「目先の利益にとらわれず、流派を超えた友情を示す事でイメージアップを狙うつもりか」
「ええ、言うなれば『武士の情け』です」
「それはちょっとニュアンスが違わないか?」
「ふふふ、冗談です。次の全国大会、ミノンとパティがいる中高の部はともかく、エーレとコルティナが攻めて来る一般の部では、『武士の情け』をかける余裕など私達にはありません。残念ながら」
微笑みつつも、どこかもどかしげな表情をするシェルシェ。
「専守防衛に徹して何とか面目を保てれば良し、だな。お前が自由に出場出来る身ならば、また話は違って来るのだろうが」
「当主という立場は実に不自由です。ですから、映画にほんの一瞬友情出演する位は許してください」
「好きにするがいい。面目は大切だが、友情も大切だ」
座っている椅子にゆったりともたれ、優しく微笑みながら孫娘に人生訓を与えるおじいちゃま。
「ありがとうございます、おじい様。レングストン家の宣伝映画にタダ乗りする形で、少しばかりマントノン家の宣伝をさせてもらいましょう」
「友情はどこへ行った」
与えた人生訓を台無しにされ、やや複雑な表情のおじいちゃま。