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「映画って莫大なお金が動く一大ギャンブルだからねー。勝てば天国負ければ地獄ー。ヒットすれば私達の全国大会の興行収入の何倍もの利益が返って来るしー、コケればメインスポンサーのアウフヴェルツ社が経営危機に追い込まれる可能性だってあり得るんだよー」
アウフヴェルツ社での企画会議を終えて屋敷に戻って来たエーレに電話を掛け、荒唐無稽なお化けの話で子供を怖がらせて楽しむ大人の様に、シビアなお金の話でこのちっちゃな生き物を怖がらせて楽しもうとするコルティナ。
「そうなれば、エーヴィヒとの政略結婚の話も解消ね。こちらとしてもせいせいするわ」
自分の部屋で寛ぎつつ電話口で心にもない毒を吐いてみせる、素直になれないちっちゃな生き物ことエーレ。
「そこで特典商法ですよー、奥さん」
「誰が奥さんよ」
「要は映画を観に来てくれたお客さんに配布するちょっとしたオマケなんだけどねー。これがあるとないとでは、観客動員数が桁違いー」
「オマケ? 子供向けのお菓子に付いて来るシールみたいな?」
「正にそれー。アニメ映画でポピュラーな特典と言えば、やっぱり生コマフィルムだねー。上映用フィルムを短く切った数コマの断片なんだけどー」
「本屋でもらう栞みたいな感じ? でも、それだけで興行収入が左右されるとも思えないけれど」
「ところが奥さん、このフィルムの断片に何が写っているかで、価値が大きく変わるんですよー」
「だから奥さんじゃないっての」
「例えばエーレが写っている可愛いシーンとかなら大当たりー。エーレ以外でも主要なキャラクターやロボットの戦闘シーンが写ってたら、かなりポイント高めだろうねー。ネットオークションに出せば高く売れたりするよー」
「え、転売目的?」
「その位欲しがる人がいるって事だよー。でも、全部のコマに青い空とかー、広大な砂漠とかー、何もない宇宙空間とかー、シーツの皺だけが写ってたりするのはハズレだねー。封を開けた瞬間気が滅入るかもー」
「シーツの皺って。じゃあ、最初からそういうハズレのフィルムは省いておけばいいじゃない」
「うふふ、逆にそういうハズレがあるからこそ、お客さんがハマってくれるんだよー。『当たりを引くまで、何度でも映画館に足を運ぶ!』って、熱心なリピーターになってくれるしー」
「ただのギャンブル依存症だ、それは」
「他にも映画の半券何枚かを応募すると、抽選で声優さんのライブのチケットが当たったりとかー」
「何かもう必死ね」
「アニメ映画を一本製作するのにどれだけお金がかかってるかを考えれば、必死にならざるを得ないよー。でもあまりアコギな商売をやり過ぎても、イメージダウンに繋がりかねないから、匙加減が難しいけどねー」
「度の過ぎた特典商法でレングストン家まで金の亡者みたいに言われたら、風評被害もいい所だわ」
「でも、『映画の半券五十枚で、エーレとの握手会に参加出来ます』とかやったら、濡れ手に粟の大儲けが出来るだろーなー」
「絶対に拒否する! ってか、一本の映画に五十回も通わせるって、鬼かあんた」
広告業界に毒されたコルティナのアコギな妄想を一喝するエーレ。
「冗談だよー。ただ、社運を賭けた映画が大ゴケして、アウフヴェルツ社が経営危機に陥ったら、エーレも覚悟を決めてねー。愛しのエーヴィヒさんの為にー」
「愛しくないっ!」
声を荒げつつも、いつの間にか理不尽なデスゲームに巻き込まれてしまった様な不安に襲われるエーレ。




