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ロボットの声の演技に関しては、色々と問題が山積みで気が重いエーレも、
「剣を使った戦闘シーンをモーションキャプチャーで演じるのは、非常に楽しみです」
ロボットの動作の演技については、レングストン家の剣士として前向きな意欲を見せていた。これまでのCM撮影で、意に反して可愛い幼女役ばかりやらされていた反動もあるのだろうが。
そのモーションキャプチャーを含むCG全般について協議する為、エーレと「劇場版エーレマークⅡ」の主だった製作スタッフは、メイン出資企業であり技術面でも全面協力を約束しているアウフヴェルツ社に招かれて会議を行っていた。
会議の席上、アウフヴェルツ社側の技術者代表であるエーヴィヒが、
「フルCGアニメでの製作も可能です。その場合、こちらから必要な機材と人員は提供させて頂きます。我々としてもアウフヴェルツ社の技術力を世にアピール出来る、またとない機会になるでしょうから」
と提案すると、
「確かに今やアニメもフルCGの時代です。ご厚意に甘えてフルCG作品に挑戦してみたい、という冒険心もなくはないのですが」
製作スタッフ側の代表であるランゲ監督は、そう言ってしばし迷った後で、
「まだまだ我々にはCGを完全に使いこなすだけの経験がありません。我々だけでなく他のクリエイター達も、CGの扱いについては試行錯誤を繰り返している段階ではないかと思います。
「現行のフルCG作品を色々と見た限りでは、出来に不満足ながらも妥協せざるを得なかった同業者のくやしさがひしひしと感じられて、正直辛い所です。
「CGは、どうしても『あ、CGだ』感が抜けきれないんですよ。だから3DCGで作った物をあえて手描きで修正する事もよくやります。この『あ、CGだ』感をどう消していくかは、おそらく永遠の課題でしょうねえ」
何かスイッチが入ってしまったらしく、CGに関する長そうな演説が始まってしまった。
「分かります。我が社のCMでも3DCGをよく使用していますが、CGでは本物の幼女の可愛らしさを表現しきれないもどかしさが残りますから」
演説の合間に個人的な趣味全開の相槌を打つエーヴィヒに向かって、
「誰が幼女だ!」
と反射的に吠えたくなったものの、ぐっとこらえるエーレ。そのまま平静を装い、
「早く剣を使ったロボットの戦闘シーンの話題にならないかな」
と待ち続けるが、そのままランゲ監督は何故か手描きによる二次元幼女キャラの魅力について延々と語り出し、挙句、
「本物のエーレさんの魅力を十二分に引き出す為に、我々は手描きに全力を尽くします!」
CGと全く関係ない決意を表明する始末。
「我が社も全力で応援させて頂きます!」
個人的趣味全開でこれに同意するエーヴィヒ。CG関係ない。
そんな二人のあさってな方向への暴走を醒めた目で眺めつつ、言葉には出さないが、
「その全力はむしろロボットの戦闘シーンのCGに回して。お願い」
と全力で願わざるを得ないエーレだった。