◆508◆
「まさか、あんなにたくさんの製作スタッフの人が実際に道場に来るとは思わなかった。本当に力が入ってるんだね、『劇場版エーレマークⅡ』は」
その日の取材が終わった後、ちっちゃなエーレの親友である大きなティーフが、稽古場の片隅でそんな感想を漏らした。
「そうね。ロボットが剣で戦うシーンに、この取材がどう活かされるのか楽しみだわ」
製作スタッフ達の熱意に感じ入る所があったのか、妙に機嫌がいいエーレ。まさかこの取材の一部が変態共の歪んだ喜びに活かされる事になるとは、この時点で露程も思ってない。
「最近、ロボットのオモチャが原作の実写映画を観たけど、すごい迫力だったよ。複雑な形のロボットのCGがリアルで、動きもスピーディーで、戦闘も激しくて。そう言えば、エーレはロボットの声を担当するんだよね?」
「話題作りの為に仕方なく、ね」
「その映画に出て来るロボットも喋るから、観れば参考になると思うよ」
「どんな風に喋るの? いかにもロボットっぽく、途切れ途切れな感じ?」
「いや、割と普通に喋ってたけど。ロボットっぽく喋るのって、もうかなり昔のロボットじゃないかな」
「ああ、やっぱり、そうなのね」
納得して深く頷くエーレ。
「何かあったの?」
「ちょっとね。まあ、でも、逆に普通に喋る方が難しいかも」
「それは言える。素人の声の演技は、どうしても不自然な棒読みになりがちだから」
「ロボットっぽい喋り方なら、最初から棒読みでいいものね。昔の方が良かったかな」
「どうだろう。ロボットっぽい喋り方も、それなりの修練が要ると思うけど」
「いずれにせよ、引き受けたからには頑張らないとね。今度プロの声優さん達にも会うんだけれど、皆、仕事に対してすごく真剣に取り組んでくれているみたいだから、私も足を引っ張らない様に努力するわ」
そんな訳でその日、家に帰ってから、ICレコーダーに「エーレマークⅡ」の台詞を録音し、再生して自分の声の演技を確かめるエーレ。
そして自分のあまりの下手さに、「うわあああ」と変な悲鳴を上げてベッドに倒れ込み、そのまま悶絶するエーレ。
「……プロの声優さんって、すごいわ、ホント」
自分の録音した声を自分で聞いて死にたくなるのは、割とよくある現象の一つである。




