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結局その日の企画会議は、飲み屋でクダを巻く酔っ払いよろしく、ランゲ監督がロボットアニメに対する熱い思いを延々とブチまけるだけで貴重な時間を使いきってしまい、かろうじてアニメ製作スタッフ一同がレングストン家の本部道場に体験入門の形で取材に来る日程だけを決定して終了した。
「自分の仕事に並々ならぬ情熱を持っていて決して悪い人じゃないんだけれど、夢中になると周りが見えなくなると言うか、カラオケでマイク持ったら離さないタイプかも」
特に反省の色もなく満足げに「やりきった」表情の監督に、父とは違うタイプの天然ボケを感じ取るエーレ。
そして数日後、本部道場にやって来たスタッフ達は、エーレや他の道場生の指導の下、道着と防具を着用して実際の稽古を一通り体験したり、その様子を写真や動画に撮影したり、細かい点について熱心に質問したりして、企画会議で失った時間を取り戻そうとしていた。
「資料は多ければ多い程いいんです。直接使われる事のない余分な資料も、見えない形で作品を支える力となりますから」
企画会議で時間を失わせた張本人が悪びれずに言う。
「氷山の様なものですね。水の上に見えているわずかな一角を、水面下で見えない膨大な氷で支えている辺り」
皆の貴重な時間を失わせた事はさておき、その作品への真摯な姿勢には感心して見せるエーレ。罪を憎んで人を憎まず。
「武芸も同じではないですか? 試合で見せる一瞬の華麗な技を、長年に亘る地味な修練の積み重ねが支えている訳ですから」
「そうですね。武芸に限らず、何事にも通じる真理かもしれません」
ロボットアニメに関しては監督が何を言ってるのかさっぱり分からなかったエーレも、こういう熱血スポ根的な話は良く分かる。
「とは言うものの、その本来は見えない部分の資料も、今はBDやDVDの映像特典に付ける事が出来ます。より深く作品を知りたい、という人達にとっては何よりの喜びになるのです」
「なるほど」
「ここで取材させて頂いた資料の一部も、映像特典にしたいのですが」
「どうぞ、ご自由にお使いください」
「ありがとうございます。詳しい内容については後で正式にそちらに伝えます」
監督が言った通り、この日の取材の様子は後に「劇場版エーレマークⅡ」のBD・DVD特典として付加され、中でも「エーレに真正面から二剣でビシバシ打たれる」映像が、
「我々の業界では何よりのご褒美です」
という変態共に大好評で、売上げを伸ばすのに大いに貢献したという。
熱血スポ根が台無しだった。




