◆5◆
マントノン家の巨大な屋敷は、中を歩くだけでもちょっとした運動になる。屋内で犬の散歩が間に合ってしまう程に。
長い廊下と階段をひたすら歩き続けて、ようやく屋敷の外に出ると、訓練士と犬、もとい長女シェルシェと弟のヴォルフは、広大な敷地内の少し離れた所に建っている稽古場までやって来た。
そこでは稽古着姿の次女ミノンが、一心不乱に木刀の素振りをしている最中であったが、二人に気付くと手を止めて、
「これから特訓するのか? よければ私も相手になるが」
目を輝かせて尋ねた。
「ええ、そのつもりで来ました」
「よろしくお願いします」
シェルシェとヴォルフが返答する。
「せっかくだから、パティも誘おう。姉弟全員揃って稽古するのも久し振りだし」
「あの子は今、ちょっとした事で落ち込んでいるので、そっとしておきましょう」
その「ちょっとした事」とは当のシェルシェ直々に下した制裁であり、パティにとっては「ちょっとした事」どころの話ではなく、我が身をズタズタに切り裂かれる思いだったのだが。
「ならば、仕方ない。パティはもっと精神面を鍛える必要があるかもしれないな」
変態の精神面を鍛えたら、ただの変態が手の付けられない変態に進化してしまうのではないか、という危惧はさておき、稽古着に着替え、さらに最新式の全身防具を着けた姉弟三人が、黒いカーボン製の練習刀を持って、再び稽古場に現れる。
軽くウォーミングアップした後で、まずミノンがヴォルフの相手をする事になり、中央で互いに一礼した後で、
「遠慮は要らない。殺す気で来い」
とミノンが嬉しそうに物騒な台詞を吐くのを合図に、荒々しい稽古が始まった。
このマントノン家三姉妹の次女ミノンの、世間から見たイメージは、
「綺麗だけど、男らしい」
「背がすごく高くて、体付きもがっちりしている」
「名家のお嬢様なのに、豪放な性格」
「戦い方がとってもパワフル」
「細かい事にこだわらない。武芸以外の事には興味がない」
一言で言うと、「綺麗な脳筋」である。
さらに言うと、本人も全くこのイメージ通りで裏表がない「綺麗な脳筋」であった。