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剣術の名門に生まれ、女子力よりも剣力を高める事に重きを置く二人の令嬢も、お年頃ともなれば普通の女の子達と同様、自分達の結婚のあれやこれやに思いを馳せて、甘酸っぱいガールズトークを展開するかと思いきや、
「エーレは、『男に生まれたかった』と思った事はありませんか?」
一応ガールズトークの定番の話題ではあるが、ややビターな方向から問いを投げかけるシェルシェ。
「小さい頃はたまに思ったけど。あ、『小さい頃』って言っても、『今よりずっと幼かった頃』って意味よ!」
自分の発言と体格を結び付けて、シェルシェが何か言いたげな笑みを浮かべたのを鋭く察知し、ムキになって予防線を張るちっちゃなエーレ。
「ふふふ、私はまだ何も言ってませんが?」
「どうだか。まだ剣術を始めたばかりの頃、憧れた剣豪が皆男だったから、『もし自分が男だったら、将来ああいう風になれるのにな』って思ったのよ。剣のスタイルだけでなく、外見までそっくり同じ剣豪になりたかったの」
「男性に比べて女性の剣豪は稀少ですからね。私達は自己投影の対象を探すのも一苦労です」
「でもすぐに、『憧れは憧れ、私は私。男とか女とか関係なく、私は私の剣術を極めるだけ』って、割り切れる様になったから、女である事も特に気にしなくなったけど。でも、どうしてそんな事を聞くの?」
「私は今でも、『男に生まれたかった』と思ってしまう事がありますから」
少し寂しげに微笑むシェルシェ。
「シェルシェの場合は事情が特殊だものね。あまり立ち入った事を言うのは憚られるけど、今は男女平等の世の中だし、シェルシェも当主として完璧に業務をこなしてるし、もう誰からも『女が当主ではダメだ』なんて言われる事もないでしょう?」
「油断は出来ません。どんなに実績を上げようとも、一度でも躓きがあれば、『やはり女が当主ではダメだ』と決めつけられかねませんし」
「仮にそんな事を言う人がいたとして、黙って見逃すシェルシェじゃないでしょ」
「ふふふ、コルティナといいあなたといい、私を暗黒街の顔役か何かだと思っていませんか?」
「違うの?」
軽口を叩いて笑い合うシェルシェとエーレ。




