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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十六章◆◆ 乙女心と野望と面白半分が混じり合った結婚観について

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494/638

◆494◆

 親友エーレの結婚を応援すると見せかけていらぬお節介を焼こうとする愉快犯コルティナと、それを止めようともせず逆に焚きつけている感のある便乗犯シェルシェだったが、


「でもこの問題はエーレだけじゃなくて、ひいてはエディリア剣術界全体の問題でもあるからねー。去年からの世界的不景気の影響がまだ残る中、全国大会の興行収入に大きく依存してるビジネスモデルを見直すいいきっかけかもー」


 時には、コルティナがもっともらしく剣術界の現状を論じたり、


「ええ、私達はあまりにも他の業界に深入りし過ぎてしまった感があります。道場本来の『人に剣術を教えて収入を得る』という基本を大きく外れてしまったら、いずれ破綻は避けられません」


 それにシェルシェも同調して、話題がエーレのロマンスからからいきなりお互いの稼業のシビアな裏事情に飛んだりもした。傷ついたレコード盤の上で、針が時々飛ぶ様に。


「飽きられたが最期、イベント業はあっという間に莫大な負債を抱え込むからねー。ウチの経営陣にもその辺は釘を刺してるよー。『いつまでも全国大会の興行収入を当てにしてたら、ここにいる全員もれなく一家心中コースだぞー』ってー」


「ふふふ、分析魔のあなたにそんな事を予言されては、さぞや生きた心地がしなかったでしょうね。ある意味、あなたこそが今のララメンテ家を牛耳る真の当主かも知れません」


「牛耳るなんて面倒くさい事はしないよー。私はただ、船の進行方向に氷山の一角が見えたから、操舵手に『よけて』って、一言言っただけー」


「多くの命を救うありがたい一言ですね」


「そこへいくと、シェルシェこそは本物の当主だねー。釘を刺さなくても、皆から恐れられてるしー。氷山の一角を見つけても、『誰かあの氷の塊をどけて来い』って一言言えば、極寒の海に自ら飛び込んで行く人が次々とー」


「ふふふ、人を何だと思っているのです、コルティナ」


「例え話だよー。もっともこの氷山はかなり大きくて、ちょっとやそっとじゃ衝突を避けられそうにもないけどねー」


「そうですね。乗組員が一丸となって全力を尽くしても回避は難しそうです。もちろん、海に飛び込んで人力で氷山を動かそうなどとするのは愚の骨頂ですが」


「ああ! せめてエーレだけでも救命ボートで逃がしてあげないとー」


「沈みゆく私達の船を眺めながら、愛しのエーヴィヒさんと無事生還を果たすのですね」


「幸せ一杯の新婚生活を送る二人にお願い。たまにでいいから、氷の海に消えた私達の事も思い出してあげてくださーい」


「そう簡単には消えてあげませんよ。すぐに船の内部の防水扉を閉じて、中に残った空気で浮力を維持し、新婚夫婦が助けを呼んで来るまでしぶとく海を漂流しましょう」


「そう言えばサムライの国で、そんな風に今も世界の海を潜水艦みたいに漂流してるんじゃないか、って言われてる巨大戦艦があったよー」


「奇しくもエーレ同様、二刀流の剣豪と同じ名前を持つ戦艦でしたね」


「夢を壊す様で悪いけどー、その戦艦の被害状況からして、私は海の底に沈んでると思うなー」


 この二人のややマニアックな例え話から六年後、話題に上った行方不明の戦艦が約七十年ぶりに海底で発見されてコルティナの分析を裏付ける事になるが、もちろんこの物語とは何の関係もない。

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