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レングストン家にて、ちっちゃなエーレを結婚ネタで存分に翻弄したコルティナは、当日多忙で参加出来なかったシェルシェを翻弄すべく、その数日後、今度はマントノン家へふわふわと遊びにやって来ていた。
「今日はヴォルフ君こっちに来てないのー? 残念、色々と新製品のお菓子を持って来てあげたのにー」
「ふふふ、あなたの来訪に合わせて、今日はこちらに来ない様、ヴォルフに言い渡しました」
しかしちっちゃなエーレと違い、そんなコルティナを逆に翻弄し返す一筋縄では行かないシェルシェ。
「ひどーい! せっかく未来の義妹が訪ねて来たのに、小姑根性丸出しで意地悪するなんてー!」
「冗談ですよ。あなたが『ヴォルフと結婚する』などと言うのと同じです」
「しかも、未来の義妹の真摯な想いを冗談にされたー」
「正直な所を言えば、ここ最近は私も忙しくて、ヴォルフとも中々会えていないのですよ」
「それは辛い所だねー。でも、そんな多忙な合間を縫って、未来の義妹と会う時間を作ってくれた事には感謝するよー、未来のお義姉様」
「ふふふ、そろそろその『未来の義妹』はやめてもらえませんか、コルティナ? 冗談だと分かっていても、当主として姉として、『悪い害虫は始末しなければ』、という使命感と殺意がふつふつと沸いて来ますから」
「冗談だと分かっていても、シェルシェが言うと怖いねー。でも、ヴォルフ君の前では、そんな物騒な事言っちゃダメだよー。情操教育に悪いからー」
自分の言動を棚に上げ、ふわふわとシェルシェを諭すコルティナ。これがエーレなら、「あんたが一番情操教育に悪いわ!」と声を荒げて言い返す所だが、
「ええ、気を付けましょう。小さな子供は周囲の大人の言動に大きく影響を受けますからね」
取り乱す様子もなく軽く微笑み、悠々とティーカップを取り上げて紅茶を一口飲むシェルシェ。
「小さな子供と言えば、今日エーレは忙しくてここへ来れなくてねー。出来れば三人で膝を交えて話したかったんだけれどー」
エーレが聞いたら、「誰が小さな子供だ!」と怒りそうな連想で話題転換を図るコルティナ。
「あなたは数日前、レングストン家でエーレと会って話をしたのでしょう? その時何か重要な話題は出ましたか?」
「色々あったよー。全国大会の観客動員数と興行収入の具体的な数字とかー、お互いの道場の道場生の数の増減傾向とかー、エディリア剣術界の今後の展望とかー」
「中々興味深いですね。私もその場にいなかった事が残念です」
「でも一番重要なのは、やっぱりエーレとエーヴィヒさんとの結婚に関する話題かなー」
ここでもしょうもない結婚ネタを引っ張る気満々のコルティナ。
「ふふふ、それは是非詳しく聞かせてください」
そして乗っかる気満々のシェルシェ。




