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「だから近い将来、エーレとエーヴィヒさんがスムーズに結婚出来る様、アウフヴェルツ社はエーレに代わる次のCMタレントを早めに発掘育成しておくべきだと思うんだよー」
結婚をしつこく勧めてくるおせっかいなお見合いおばさんよろしく、エーレとエーヴィヒの結婚を確定事項として一方的にふわふわと話を進めるコルティナ。
「結婚云々はともかく、次のCMタレントの発掘育成は私も賛成だわ。大体、私は元々タレントに向いてないもの」
そんなおばさんのペースに絶対乗せられるものかと抵抗する二十そこそこの娘さんよろしく、逆らい続けあがき続けるエーレ。
「今やエディリアの国民的癒し系マスコットキャラが何か言ってるー」
「誰が国民的癒し系マスコットキャラだ!」
「自分を客観的に評価するのも大事だよー。CMタレントとして、アウフヴェルツ社の売上げに多大な貢献をしてるっていう事実は認めないとー」
「私一人の力じゃないわ。CM製作に関わっている全ての人達の努力の成果よ」
「それとエーヴィヒさんの愛」
「やかましい」
「どんなジャンルでも、十分な魅力を引き出すにはその対象への愛が不可欠だからねー。裏事情を知ってる業界人としては、アウフヴェルツ社の一連のCMから、エーヴィヒさんのエーレに対するただならぬ愛をひしひしと感じてるよー」
「いつから業界人になったのよ」
「あちこちの会合に顔を出してる内に、広告業界ではちょっとした発言力を持つ立場になっちゃってー」
「どこからともなくふらっとやって来て、いつの間にか我が物顔で住み着いた野良猫か」
「言い得て妙だねー」
「ほめてないから」
「その発言力を利用して、エーレが出演するCMの内容を大幅に変える事にも成功したしー」
「こっちは大迷惑よ!」
「エーヴィヒさんとも相談して、今後はエーレを少しずつCMからフェードアウトさせる方向で検討する予定だよー」
「それは早めにお願いしたいわ。でも、あの変態と相談ってどういう事よ」
「実質エーレのマネージャーさんみたいなものじゃなーい。アウフヴェルツ社のCM製作会議ではリーダー的存在だしー」
「何でそんな事まで知ってるのよ」
「蛇の道は蛇だよー。案外狭い業界だしねー」
「呆れたわ」
「いずれは、私もアウフヴェルツ社のCM製作会議に直接出向いて提言するかもー」
「やめて」
「残り少ないエーレのCMだし、せっかくだから色々やって遊んでみたいなー」
「やめろ」
「エーヴィヒさんと海辺でキャッキャウフフさせたら、美男美女で絵になるねー」
「絶対やめろ!」
エディリア広告業界の闇に怯えるエーレ。




