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「やっぱり、マントノン家の三姉妹の中で、政略結婚の駒として一番使い勝手がいいのはパティだねー。ミノンはちょっとマニア向けー」
「『マニア』言うな」
本人達がその場にいないのをいい事に言いたい放題のコルティナに、ツッコミを入れざるを得ないエーレ。
「パティも割と背は高い方だけど、ミノン程の巨女じゃないしー」
「その『巨女』もやめなさい」
「エディリア最大手の剣術の名門のお嬢様でー、美人だしー、器用だしー、お茶の間の人気者だしー」
「それらを補って余りある変態だけどね」
「変態とはちょっと違う様な気もするけどねー。『可愛いものに目がない』、ってだけでー」
「度が過ぎるのよ! アレはほとんど犯罪者レベルだわ!」
「アレが犯罪者なら、猫カフェに通う人は皆犯罪者だよー」
「何その例え」
「エーレだって、目の前に可愛い子猫ちゃんがいたら、モフらずにはいられないでしょー?」
「その子猫が嫌がってたら、無理に触ろうとはしないわよ!」
「同じちっちゃくて可愛い動物だけに、気持ちがよく分かるんだねー」
「誰がちっちゃくて可愛い動物だ!」
「でも、パティは幼児向け番組にレギュラーコーナーを持ってて、ちっちゃな幼児達の人気者だよー?」
「みんな騙されてるのよ。深刻な被害が出る前に幼児との接触を禁止すべきだわ」
「つまり、エーレとの接触を禁止しろって事ー?」
「そう、そういう法律があればいいのに。って、誰が幼児だっ!」
「今のはいいノリツッコミだねー。それはさておき話を戻すとー、そういう『可愛いものに目がない』性癖のパティだけどー、必ずしも結婚相手に『可愛さ』は求めないんじゃないかなー。政略結婚の駒としての自覚は一応持っていそうだしー。その辺はドライに割り切りそー」
「いっそ『可愛いさ』とは程遠い、一見してそれと分かる変態男と結婚して、嫌な相手から自分の体をベタベタ触られる恐怖を味わえばいいのよ。因果応報だわ」
「ひどい事言うねー。いくらエーレが好きな相手から自分の体をベタベタ触られる幸せが確定してるからってー」
「確定してない!」
「まー、政略結婚とは言っても、双方にある程度選ぶ権利はあるでしょうしー、シェルシェがそんな一見してそれと分かる変態男を親族に加える事は許さないだろうしー、結局パティは、それなりの血筋と肩書きと見た目と中身を持った男の人と結婚するんだろうねー」
「それだけの好条件に恵まれてるのにあの変態女と結婚させられる男の人に同情するわ。でも、結婚をきっかけに、あの変態女の活動が沈静化してくれればいいのだけど」
「自分の子供が出来たら、そういう変化もあり得るかもねー。育児に膨大なエネルギーを取られるしー、何より我が子は母親にとって、この世で一番可愛いものだからー」
「パティ、早く結婚してくれないかしら。切実に」
「でも、パティはまだ中学生で結婚可能な年齢にすら達してませんからー、残念!」
「本当に残念よ!」
「それまで、その子の代わりをエーレが務めるしかないねー」
「誰が務めるか!」
ツッコめばツッコむ程、暗澹たる思いが増殖していくエーレ。




