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「まー、どんなに好条件の縁談が来ても、ヴォルフ君を立派な当主に仕立て上げるまで、シェルシェは結婚する気は全然ないんだろうけどねー。あんなに美人なのにもったいない話だよー。性格はおいといて」
「あなたに言われたくないと思うわ」
残念美人シェルシェを茶化す残念美人コルティナにツッコミを入れつつ、ちょっと笑ってしまうエーレ。
「シェルシェは政略結婚の駒としては使えない位の大駒になっちゃった感があるねー」
「そうなると自然、政略結婚の駒としては妹のミノンとパティに白羽の矢が立つわね」
「ミノンの場合、見た目そのままの大駒だから、シェルシェとは別の意味で使いづらいかなー。サイズ的な意味で」
「失礼よ。でもやっぱり男の人って、自分より身長が高い女の人に気遅れしがちなのかしら?」
「その点、ちっちゃいエーレは守備範囲が広くていいよねー」
「ほっとけ!」
「ま、ミノンの場合、巨女マニアの御曹司とかなら、うまくいくかもー」
「『巨女マニア』って、あんた」
「それと、ミノンはCMでイケメン役ばっかりやってるから、男の人より女の人に圧倒的に人気があるよねー。縁談も名家の令嬢からたくさん来たりしてー」
「シャレになってないわ、それ」
「同性婚が普通に認められつつある昨今、マントノン家初の女同士の夫婦が誕生するかもよー」
「ミノンにそっちの気はないと思うけど」
「マントノン家にとって有利になると判断すれば、シェルシェもその手の縁談を強引に後押ししたりしてー」
「あり得そうで怖いわ。でもシェルシェは割と根が保守的だから無理じゃない? 女の自分が当主でいる事自体、内心快く思ってない所があるし。だから弟のヴォルフに早く継がせたがってる訳で」
「そうだねー。シェルシェは表に出て当主をするより、裏から当主を操る方が好きそうだもんねー」
「そこまで言ってない。確かにそうかもしれないけど」
「いずれにせよ、二人の妹の結婚についてはシェルシェの意向が大きく反映されるだろーねー。でも、ミノンは叔父さんに似て情熱的な所があるから、大恋愛の末に周囲の反対を押し切って駆け落ちする可能性も微粒子レベルで存在するかもー」
「そうなったら、ちょっとしたお家騒動ね。マントノン家の前当主も、身分違いの恋愛が原因で当主の座を降りた訳だし」
「タイトルは、『結婚阻止命令! 殺人鬼シェルシェ対巨大怪獣ミノン!』で決まりー」
「何そのB級映画」
エーレは呆れつつ、緑茶を一口飲んで、
「でも、まだミノンは色恋より剣術の方に夢中な子供だから、縁談とか全く眼中にないんじゃないかしら?」
まるで自分が大人だとでも言わんばかりの口を利く。
そんなエーレをコルティナはふわふわとした笑顔でじっと見つめ、
「な、何よ! 何か言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさいよ!」
ちっちゃなエーレが自分の発言に気恥ずかしさを感じて逆上するまで、そのまま無言で見つめ続けたのだった。




