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縁談話にかこつけてエーレを弄り倒した後、それでもまだ足りなかったのか、コルティナは話題を二人の親友であるマントノン家の女当主の方へ移行し、
「シェルシェの方の縁談はどうなってるんだろうねー。エディリア剣術界最大手の女当主に婿入りして、逆玉を狙う猛者はいないのかなー?」
ふわふわとそんな疑問を口にした。
「当主でいる間はまったく結婚する気がない、とか言ってたけど。それでも、まったく縁談が来ない訳じゃないでしょう」
ようやく話題が自分から離れた事にほっとしながら答えるエーレ。
「その口ぶりだと、売約済みのエーレの所にも結構来てるみたいだねー」
ホラー映画のラストで倒されたと思いきや突然生き返ってヒロインに襲いかかるモンスターの様に、容赦なく話題をエーレに戻すコルティナ。
「誰が売約済みだ! でも、まあ、時々打診は来てるらしいわ。その都度丁重に断ってくれてるみたいだけど」
「『ウチのエーレはもう心に決めた人と結婚させますから』、って断ってくれてるんだねー。レングストン家が総力を挙げて、エーヴィヒさんとの結婚を応援してくれてるんだよー」
「段々怖くなって来たからやめて。何の罪もないヒロインが悪魔の生贄にされるホラー映画みたい。話をシェルシェに戻しましょう」
モンスターから逃れようとしてジタバタあがくホラー映画のヒロインよろしく、何とか自分から話題を遠ざけようと必死なエーレ。
「シェルシェの場合、生贄にされるんじゃなくてー、自ら進んで生贄になってる感じだもんねー。昔の人が言った様に、当主の椅子の上には抜き身の剣がぶら下がっているんだよー」
「婿入りを志願する人がいたとして、シェルシェの隣でその抜き身の剣の恐怖に耐えられるかしら」
「抜き身の剣より、隣にいるシェルシェの方が百倍恐そうだけどー」
「失礼よ」
そう言いつつ、ちょっと笑ってしまうエーレ。
「でも、それで結婚して子供が出来たら、次期当主を誰に継がせるかで絶対一騒動あるよねー。シェルシェとしては弟のヴォルフ君に跡目を譲るつもりでも、旦那がやいのやいのと口を出しかねないしー」
「そうね。単に自分の子供に継がせたいだけじゃなく、それによってマントノン家への発言力を強化したいっていう思惑もあるでしょうから」
「立場の弱い婿養子の必死の抵抗だねー。ま、シェルシェにふざけた口を利いて、無事でいられるとは思えないけどー」
「エディリア広しといえども、あのシェルシェを前にしてふざけた口が利けるのは、多分あなた位のものよ、コルティナ」
力なく笑うエーレ。
「それはつまりー、やっぱりヴォルフ君のお嫁さんは、私以外に考えられないとー?」
「言ってない」
真顔になってツッコミを入れるエーレ。




