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「私は剣士という本業を外れて、タレントまがいの真似をする気はないわ!」
大きいお友達向けアイドルへの転向を勧められ、ちっちゃくて可愛いけど根は熱血剣士なエーレがもう一度叫ぶ。
「うふふ、冗談だよー」
そんなムキになったエーレを見ながら微笑みつつ、
「でも、私達の本業は剣士じゃなくて、剣術道場の娘って事じゃないかなー?」
ふわふわと問いかけるコルティナ。
「同じ事でしょう?」
「違うよー。政略結婚の駒って意味ー」
「ああ、そういう事ね」
シビアな現実を思い出し、冷静さを取り戻す名門レングストン家の令嬢エーレ。
「政略結婚の駒が、いつまでもアイドルとか戦闘ロボ『エーレマークⅡ』とかやってる訳にもいかないよねー」
「誰が戦闘ロボだ!」
が、すぐに冷静さを失う「エーレマークⅡ」。
「エーヴィヒさんをずっと待たせておくのも可哀想だしー」
「なぜそこであの変態の名前が出る」
「もう婚約したも同然でしょー?」
「私はそんな人身売買契約に同意した覚えはないわ!」
「本人の意思なんて関係ないよー。私達は政略結婚の駒なんだからー。今のレングストン家とアウフヴェルツ家の密接な関係を考慮すれば、エーレの嫁ぎ先は決まったも同然だよー」
「で、でも! わざわざ結婚しなくたって、アウフヴェルツ社との良好な関係は維持出来るわ!」
「何かエーレ、自由でいたくて結婚を先延ばししようとあがくダメ男みたい」
「誰がダメ男だ!」
「もうどっちの家でも、『これ程の良縁はありませんねえ、おほほ』、な雰囲気が既に出来上がってるしー」
「見て来た様な嘘をつくな!」
「政略結婚のお相手が『最愛の男性』だなんて、エーレはどれだけ幸運に恵まれているんだかー」
「『最悪の変態』の間違いよ!」
「じゃあちょっと試してみようかー。エーヴィヒさんがグラマーで綺麗なお姉さんと腕を組んで歩いている所を想像してみてー」
「普段のあの男の行動からして、想像し辛い光景ね」
「それを見たエーレは面白くないんじゃないかなー?」
「全然。何か珍しいものを見た感じはするけど。街中を散歩するペンギンとかと同じレベルで」
「なるほど、『絶対自分一筋だから、浮気する可能性はないもん!』、という自信があるとー」
「誰がそんな事を言った!」
「じゃあもうちょっとレベル上げてみよーかー。エーヴィヒさんがそのお姉さんと抱き合ってキスしてる所を想像してみてー」
「な……!」
「今、動揺したねー、エーレ?」
「と、突拍子もない事言うから、驚いただけよ!」
「さらにレベルを上げて行くよー。エーヴィヒさんがそのお姉さんと裸でくんずほぐれつしてる所を想像してみてー」
「想像させるな! ってか、セクハラオヤジかあんたは!」
「顔が赤いよー?」
「やかましい!」
からかいがいのあるちっちゃなエーレ。




