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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十六章◆◆ 乙女心と野望と面白半分が混じり合った結婚観について

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483/638

◆483◆

 テレビCMは人の記憶に残るという点で、下手な映画やドラマ以上の効力を持つ。


 ふと、古いビデオを再生した時、当時は早送りで飛ばしていたCMを見て、


「ああ、なつかしいなあ! このCM、昔よく流れてたっけ!」


 などと妙にしみじみとしてしまう事は、誰しも覚えがあるだろう。たとえそれが殺虫剤や入れ歯洗浄剤の様に、普通ならしみじみと程遠い所にある商品のCMだとしても。

 

「CMは時代を反映しているからねー。だからCMを見れば、当時の世相も分かるんだよー」


 そんな事例を踏まえ、「八代目ふわふわ魔女」ことコルティナが、何やらCM論を一席語り始めた。


「今オンエアされてる私達のふざけたCMも、いずれ懐かしい思い出になるんでしょうね。何だか複雑な気分だわ」


 「八代目ふわふわ魔女」の語りに付き合う「エーレマークⅡ」ことエーレ。


「録画してあった古い番組を見ながら、『あの頃は、エディリア剣術界も盛り上がっていたなあ』、ってねー」


「それだと将来、エディリア剣術界が衰退してるみたいじゃない」


「あり得ない話じゃないよー。どんなアイドルだって、全盛期は長く続かないしー」


「まあね。すぐに、次の世代の人気者が出て来て、私達なんかすぐ忘れられるでしょう」


「寂しい?」


「全然。アウフヴェルツ社には悪いけれど、早くそうなって欲しい位だわ。剣術と関係ない事で盛り上がられても、ね」


 どうやら、剣士の冒険活劇風CM案がボツになったのを、まだ根にもっているらしい「エーレマークⅡ」。


「剣術と関係ない『キャラ萌え』的な盛り上がりは今がピークだろうねー。そろそろ視聴者も飽きてきて、別の新しい物が欲しくなる頃合いだよー」


「いい事だわ」


「でも、これは全国大会にも言える事でー。観客も剣術の試合に飽きて、別の新しいイベントに目移りする頃合いでもあるからー」


「そっちの方は問題ね。興行収入だけじゃなく、道場生の減少にもつながりかねないし」


「身も蓋もない事を言っちゃうと、元々剣術の試合って、地味で分かりにくい所があるからねー。派手な流血やKOシーンがある訳でなしー」


「そんな殺伐とした競技だったら、道場生は今の百分の一以下に減るわ」


「そして、傾いた道場経営を助ける為に、エーレはエディリア全土をドサ回りして稼ぐのー。歌ったり、踊ったりー」


「旅芸人の一座じゃないんだから」


「大きいお友達に愛嬌を振りまけば、おひねりが一杯もらえるかもねー。あの人達お金持ってそうだからー」


「そこまで魂を売る気はないっ!」


 突き付けられたおぞましい未来予想図を払いのける様に、つい声を荒げてしまうエーレ。

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